スカウト1年目は悪戦苦闘の日々「大変でした…」 古澤勝吾氏が語る“激動の業務”

ソフトバンクに2位指名された岩井俊介(左)と古澤勝吾アマスカウト【写真:福谷佑介】
ソフトバンクに2位指名された岩井俊介(左)と古澤勝吾アマスカウト【写真:福谷佑介】

選手を視察するだけで終わらないスカウトたちの1日

 10月26日に都内のホテルで開催されたドラフト会議で、ソフトバンクが2位で指名したのが名城大の岩井俊介投手だ。最速156キロのストレートに加え、変化の大きなスラーブ、独特の軌道を描くスプリットを武器にする右腕。この岩井を高く評価し、指名を強く推した存在が、今年からスカウトに転身した古澤勝吾アマスカウトだった。

 九州国際大付高から2014年のドラフト3位でホークスに入団した古澤スカウト。1軍出場のないまま、2018年オフに戦力外通告を受け、育成選手として再契約を結んだ。2020年オフに2度目の戦力外を受けると、2021年から球団の野球振興部のスタッフとして働き、今年1月にアマチュアスカウトになった。

 東海地方と滋賀県、福井県の担当となり、これまで縁のなかった愛知県名古屋市に住まうことになった。「東海地方っていう知らない地域だったので、どの学校が強いのか、とか情報を知らないのでそこが大変でした。福岡とか九州であれば、ある程度、どのあたりを見ておいたらいいな、とか分かるんですけど……」。未知の地だけに、まずは情報収集と下調べから、スカウト業はスタート。初めて出向いたのは、オリックスに3位で指名された東松快征投手のいる享栄高だった。

 担当地区にいる無数のアマチュア選手に目を光らせ、その潜在能力を見極めて発掘するスカウトという仕事。足繁く球場や練習グラウンドに足を運んで、選手の動きに目を光らせることが仕事というのはイメージがつくが、日々、どう動いているのかはあまり知られていない。古澤アマスカウトは課される業務の中身について教えてくれた。

 当然、選手を見に行き、それぞれの目で見極めるのが最大の仕事だ。いつ、どこで、注目選手がプレーするのか。各地に点在する選手をどう見て回るか。まずは情報を把握し、そしてスケジュールを管理することが重要だと言う。スケジュール決めると、お目当ての選手の試合や練習の視察に行き、映像を撮りつつ、プレーに目を光らせる。

 視察が終わっても、その日の業務は終わらない。宿泊先や自宅へと帰ると、そこからその日のレポート作りが始まる。まずは自身が撮った映像を自ら編集。さまざまなカットを繋ぎ、必要な情報をテロップとして打ち込む。それが終われば、テキストでのレポート制作。選手の特徴などを言葉にして列記し、上司である永井智浩編成育成本部長と福山龍太郎アマスカウトチーフに提出。それでようやくその日の業務が終わる。

 古澤スカウトは苦笑い交じりに1年をこう振り返る。「僕はレポートを書くのが本当に大変でした。子どもの頃から文章書くことなんてほとんどやったことがなかったですから……。レポートにすごく時間がかかっちゃうんです」。スカウト1年目は悪戦苦闘の日々。少しでも業務効率を上げようと、自分なりに勉強し、試行錯誤も繰り返した。

「新聞や雑誌の記事やネットに出ている記事の書き方をめっちゃ見るようになりました。あとは選手を見つつ、スマホでまず先に自分の思ったことをメモするようになりましたね。時間が経つと忘れてしまうので、思ったことをまず箇条書きにして、それを基にしてレポートを書くようになりました」

 現代のスカウトは自分の目で見たものだけで選手を評価すればいいわけではない。投手でいえば球速だけでなく、ボールの回転数や回転軸、回転効率、変化量など多種多様なデータを理解し、それも評価の基準に加えなければいけない。「データの指標を覚えて、それをどう読むかの勉強もしました。機器の使い方を覚えて、自分で持っていって測る、というのも大変でしたね」。いまやスカウトもデータを重視する時代となっているのだ。

 実際にスカウトになってみて驚いたのは「ここまで調べるんだっていうぐらい、選手のことを調べる」ということ。「性格もそうですし、育った環境とかもですね」。どこかにいい選手がいると聞けば、足を運ぶ。「見なくてもよかったかな、ということもありました。ただスカウトとして、他球団が指名した選手を『知らないです』では仕事にならないんで。それはやっていても不安でした。一度見ておこうと思うと、もうスケジュールはギチギチでした」。

 今年でいえば、古澤スカウトの担当地区からドラフトの指名リストに挙がっていたのは育成選手の候補も含めて10~20人ほど。どの球団からも指名がなかった選手もわずかながらいた一方で、トップの評価を与えていたのが2位で指名した岩井だった。スカウトが汗を流し、全国を駆け回って発掘した選手たち。彼らがホークスの未来を輝かしいものにしてくれることを願いたい。

(福谷佑介 / Yusuke Fukutani)