【連載・周東佑京】仙台の落球で感じた自身への「成長」 意外な答えの裏にある経験と信頼

ソフトバンク・周東佑京【写真:小林靖】
ソフトバンク・周東佑京【写真:小林靖】

コンディションは「疲れ切っています」、自身の目に映る今のチーム状況とは

 鷹フルがお届けする主力4選手による月イチ連載、周東佑京選手の「9月前編」です。8月25日の楽天戦(楽天モバイル)で、失策してしまった周東選手。少し時間が経った今、あのプレーを振り返って感じるのは「成長」だと言います。残り試合も少なくなってきた終盤戦、どんな心境を抱えながら戦っているのでしょうか? 盗塁王に対する具体的な考えも明かしました。今回のテーマは「仙台の落球」です。次回連載は16日(土)に掲載予定です。

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 9月8日の楽天戦(PayPayドーム)で「1番・中堅」として出場。初回に内野安打を放つとすぐさま二盗を決めた。これが今季27個目の盗塁。楽天の小深田が2回に同じく27個目を決め並ばれたが、一瞬だけリーグトップに躍り出ていた。8月も5盗塁で、足の調子は「普通です。良くも悪くもなくって感じです」と分析している。

 残り試合も少なくなり、チームの順位が最優先ではあるが、個人タイトルも絡んでくる時期だ。周東は「難しいですね」と率直な思いを吐き出す。「チームが独走していたらやりやすいと思いますけど。上(2位)も下(4位)も近いので、どうしてもアウトにならない方を優先しちゃうと思います」。失敗すれば、一気に流れを手放してしまう盗塁。リスクを頭に入れた上で、チームの勝利を優先する姿も周東らしい。

「自分のために走るわけにもいかないので。そこはしっかりと考えながら。行くところと、行かないところ。今の時期になるとめちゃくちゃ考えますね」

 2020年に50盗塁でタイトルを獲得した時は、チームもリーグ優勝&日本一に輝いた。終盤に12連勝するなどチームも勢いに乗っていただけに「(走れる環境が)整っていました。下(のチーム)も離れていましたし、自分の個数も考えていました」と振り返る。基本的に、周東へのサインはグリーンライト。「本当に100%に近い確率じゃないと、行くのはあれかと思いますけど。(基本的には)自分で『走ります』って言って走っています」。

 交流戦から代走としての出場が目立つようになったが、本人は「『代走でいいや』と思うようになったら終わり」とレギュラーへの強い思いを抱き続けている。7月の連載前編では「控えでタイトルを取ってもすごいなって思いますけど『価値ってあるのかな』って自分でも思うこともある」と率直な思いを明かしていた。タイトル争いに現実味が出始めた今、どんな心境を抱いて、次の塁を狙おうとしているのか。

「それは変わっていないです。ここからずっと試合に出られるかもわからないですし。(タイトルを)取るなら、それなりの個数は走りたいなって思いますけど。恥ずかしくないような個数で、見栄えする数字にはしないと行けないと思います。35(盗塁)あれば、今年は余裕で取れるとは思っています。30から35の間くらいですかね」

 直近の周東のプレーの中で印象に残っているのが、8月25日の楽天戦。三塁を守っていた7回2死二塁、飛球をグラブに当てながらも落球して、同点とされた。延長10回にサヨナラ負けし、チームも3タテを食らっただけに、大きなミスとなってしまったが、振り返ってみれば周東が感じるのは意外にも「成長」だという。

「悔しいのもありましたけど、今回はそんなに引きずらなかったです。引きずる時期でもなかったですし、次の日も試合に出るかもしれなかったので」

 主に三塁のスタメンだった栗原陵矢外野手が8月24日に登録抹消となり、その翌日の試合でミス。26日の試合では、リチャード内野手が三塁スタメンで、周東は代走から出場し、その後に三塁に回った。「明日もサードで出るかもしれなかったですし、それで引きずって次の日に結果が出ないとなれば、そっちの方がチームに迷惑がかかると思った」と冷静に現状を受け止めていた。

 2020年には自身のエラーがきっかけとなり、ベンチで涙を流した周東。パッと切り替えられるようになったことにも「年々ですね。何も気にしないと言ったら変ですけど、また次の日にいい準備って考えられるようになりました。成長したなって思います」。自身を「引きずるタイプ」だと分析するが、プロとしてたくましくなっているところだ。

 チームは3位を守りながらも、どこか波に乗り切れない状況が続いている。周東自身のスタメンも少しずつ増えてきた中で、雰囲気に対して感じているのは若手からの“息吹”だ。

「そんなに悪くないと思いますけど。井上(朋也内野手)とかがパッと来て、結果を出して。生海(外野手)が出て結果を出してとか。珠(増田珠内野手)もそう。ああいう選手がこの時期に上がってきて結果を出すのはすごいと思いますし、それだけで盛り上がると思うので。周りの選手も『やらないといけない』っていうのがあると思います」

 ここまで1度も登録抹消されることなく、1軍で戦い続けている。取材の冒頭、自身のコンディションについても「疲れ切っています。久しぶりに起きたくなかったです、朝」と漏らしていた。2023年シーズンは、泣いても笑ってもあと少しだ。

(竹村岳 / Gaku Takemura)