打席の中であえて口に出した「大丈夫」 周東佑京のサヨナラ打に繋がった“自己暗示”

サヨナラ打を放ったソフトバンク・周東佑京【写真:荒川祐史】
サヨナラ打を放ったソフトバンク・周東佑京【写真:荒川祐史】

「打てなかったらどうしようとか思わないように」

 ソフトバンクが劇的なサヨナラ勝ちを飾った。30日にPayPayドームで行われたロッテ戦。同点で迎えた延長11回2死満塁で、周東佑京外野手が左前に弾き返し、値千金のサヨナラ打。ここまで8戦全敗だった今季の「鷹の祭典」最終戦でようやく勝利を掴み、二塁ベース上で歓喜の輪が出来上がった。

 ビハインドを跳ね返した。2点を追う8回に途中出場の増田珠外野手、周東が連打で繋ぎ、柳田悠岐外野手の適時二塁打で1点差に。さらにウイリアンス・アストゥディーヨ内野手の犠飛で三塁走者だった周東が生還し、同点に追いついた。試合はそのまま延長戦へ。最後に試合を決めたのは周東だった。

 延長11回、先頭の川瀬晃内野手が四球で出塁。今宮健太内野手が犠打を決めると、牧原大成内野手は敬遠され、増田が左前安打で繋いだ。打席には周東。2ボール2ストライクからの5球目、澤村が投じた真っ直ぐを弾き返すと、打球は三遊間を抜けて左前へ。周東の約1か月ぶりの安打が殊勲の一打になった。

 この打席で周東は打席の中で何かを呟いていた。初球の真っ直ぐをファウル、2球目のスプリットを見極めてボール、3球目は真っ直ぐを再びファウルにし、4球目のスプリットを見極めた。

「いけるぞ」

「フォークも当てられる」

「大丈夫だぞ」

 自分に言い聞かせるように、あえて言葉に出して呟いた。「あんな風に口に出したのは初めてです。最近、ヒットが出なかったですし、打てなかったらどうしようとか思わないように。口に出せば大丈夫かなと思った」。心に湧いてくる不安な気持ちを押し殺すように、口に出して、自らの気持ちをたかぶらせた。

 前半戦の終盤はグリップエンドの大きいバットを使っていたものの、後半戦からはそれが小さいものに変えた。「近藤(健介)さんのバットを借りて打ってみたら感触が良かったので、そのまま“借りパク”してます」。この日の出番は、近藤の負傷交代によって巡ってきたもの。何の因果が、近藤のバットが試合を決めた。

 7月のスタメンは、17日のオリックス戦での1試合だけ。なかなか訪れないスタメンのチャンスにも「打てれば出られると思っていますし、そこができていないから出られないだけ。本当にやるしかない、少ない打席だから打てないとかそういう言い訳はしないで、その場その場でしっかりパフォーマンスが出せれば、自ずとスタメンに近づくと思っています」と受け止めている。

 大きなキッカケとなりそうな1本のサヨナラ打。「鷹の祭典」初勝利を呼び込む、チームを救うまさに値千金の一打だった。

(福谷佑介 / Yusuke Fukutani)