楽天戦力外で「公務員の勉強を…」 渡邊佑樹は昨オフに野球を辞めるつもりだった

ソフトバンク・渡邊佑樹(右)【写真:竹村岳】
ソフトバンク・渡邊佑樹(右)【写真:竹村岳】

戦力外通告とトライアウトの生々しいリアル「トライアウトが終わったその日に…」

 一度は野球を辞めようと思った。ソフトバンクの育成選手・渡邊佑樹投手は5月下旬から2軍の本隊に合流している。「自分の中では良くなってきた(感覚)のはあるので、それを見てもらえたら」。支配下登録期限の7月31日を「ここでダメだったら終わりだと思うので、自分の投球が1戦目からできるように」と見据えている。

 2017年ドラフト4位で横浜商大から楽天に入団。5シーズンを過ごして、昨季オフに戦力外となった。トライアウトを経て、ホークスに移籍すると、ウエスタン・リーグでは3月に2試合に登板。それ以降は3軍で過ごし、16試合で防御率1.00をマークしており「ずっとスライダーが課題でキャンプからうまくいかなかった。試合数を重ねて良くなってきた」と状態を自己分析する。

 楽天時代の2022年、秋季キャンプのメンバーに入らなかった。「そういうことなんだろうなって、可能性はあるかな、と。素直に受け入れていました」と、戦力外へのある程度の覚悟はできていた。球団から「トライアウトは受けない方向で考えています」とコメントが発表されたが、結果的に11月8日に楽天モバイルパーク宮城で行われた12球団合同トライアウトに参加。どんな心境の変化があったのか。

「トライアウト前に(獲得の)話があればと思っていて、受けないつもりだったんです。楽天のスカウトの方に『何球団か見たいって言っている球団がある』と言われたので、受けさせてもらいます、と。最初は(トライアウトを受けるかどうかの)期日に『受けません』って言っていたんですけど、期日が過ぎても僕の方に連絡がきていたので。そうやって期日を過ぎてまで言ってくれるなら……って感じでした」

「最初に受けないって言ったのは、野球以外の道ももちろん全然ありだと思っていたからです。野球しかない、野球を取ったら何もない人間だっていうのはあまり好きじゃないんです。一般社会でも普通にやっていくの(心の準備)はありました。トライアウトの期日までは(オファーを)待とうと思っていたんですけど、待っても来なかったらキッパリと野球は辞めるつもりでした」

 自分を披露する場として、トライアウトに参加した。野球以外でやりたかったことも「うっすらですけど、公務員試験の勉強をする……とか考えていました」という。父親は会社員。プロ野球の外で生きることもかなり具体的に視野に入れて、セカンドキャリアを見据えていた。「野球しかないって嫌じゃないですか。それは賛否両論あると思いますけど、僕は嫌です」と独特な価値観で続ける。

 結果的に支配下から育成契約を結んだ2020年オフと、2022年オフの2回、戦力外通告を経験した。「周りの人が思うほど『ショックで何も考えられない』とかはなかったです」。オファーがなければ、最後のユニホーム姿になるかもしれなかったトライアウト。ホークスから獲得の一報が届いた瞬間を、具体的に明かす。生々しいプロ野球選手のリアルが伝わってくる。

「トライアウトが終わって、もうその日に来ました。グラウンドにいる時、片付けをしていたら知らない番号から電話がかかってきました。(電話の相手の第一声は)『ソフトバンクホークスの……』って、そんな感じだったと思います。でも、トライアウトが終わって知らない番号から電話がかかってくるってことはそういうことなのかなと思いました」

 ホークスに入団して半年近くが過ぎた。「もう28歳になりますし、周りの一般社会で働いている子たちも結構いい給料をもらったりする時期じゃないですか。いつまでもプロ野球選手って、偉いとかじゃないです。一般社会でも頑張ったりしている人はいっぱいいるので。僕は今はこういう職業なので、精一杯頑張りたいです」。マウンドに立つ渡邊佑樹の姿を、一瞬たりとも見逃さないでほしい。

(竹村岳 / Gaku Takemura)