明石健志コーチがZ世代の選手に思うこと「危機感薄い」 抽象的なレギュラーへの道

ソフトバンクの明石健志2軍打撃コーチ【写真:竹村岳】
ソフトバンクの明石健志2軍打撃コーチ【写真:竹村岳】

昨季に現役を引退…今季から2軍打撃コーチへ

 指導者となって、初めての春季キャンプを終えた。若鷹を羽ばたかせるために、自分も力になろうとした日々だった。「Z世代」と呼ばれる選手たちに、ソフトバンクの明石健志2軍打撃コーチは「可愛いなと思いますよ。イライラすることとかないです」とはっきりした口調で言った。

 昨季限りで現役を引退し、今季から指導者に転身した。2軍打撃コーチとなり、春季キャンプはB組で若鷹と過ごした。全体練習前のアーリーワークから夕方まで、選手の練習を見守り「やるのと、やらされるのは違う。やらされることが大事な時もありますけど、自分の意思でやることが大事」と信念を持って向き合ってきた。

 考えさせられる出来事もあった。3年目の笹川吉康外野手は連日、アーリーワークに参加。顔つきが変わった選手として、小久保裕紀2軍監督も名前を挙げていた。キャンプ後半、ある日の特打。疲れからか、どこか打っている姿に気持ちが乗っていないように見えた。中途半端な練習は怪我のリスクも高まる。選択肢を考えた中で明石コーチは練習を続けさせた。

「やめさせようかと思ったんですけど、『もういいからやめろ』って言おうと思ったんですけど、彼も考えながらやっている。それで、彼の場合は自分でちゃんと答えを見つけてくるんですよ。やめろと言いたいけど、その時はいいかと思いました。でもやっぱりちゃんと答えを見つけて言ってきたので」

 現役時代には腰痛と向き合い続けただけに、オーバーワークを心配する気持ちもある。「怪我しないなら、しない方がいいんです。どこまでやっていいのかはこれから勉強です。顔色を見たりして、メリハリをどうつけさせたらいいのか」。大切なのは距離感。選手の性格を踏まえながら、どんな練習をすることがその選手にとってベストなのか。明石コーチ自身が学んでいるところだ。

 時代は確かに変化している。明石コーチがホークスに入団し、森脇浩司、秋山幸二、鳥越裕介……と、多くの2軍監督のもとで1軍を目指した。鳥越氏との練習では、明石コーチですら涙を流したこともあるほど。「今の子もできないことはないと思います。仮に1か月として、何人続けられるかですよね。1か月で得られるものなんて、ね」。自分自身が経験してきた道を、今の若鷹たちには重ねようとはしていない。

 ただ、明石コーチはハッキリと言う。それぞれが描くレギュラーへの道筋が、抽象的なのではないか、と――。

「最終的にはみんながレギュラーを最終目標にやっているじゃないですか。レギュラーと今呼ばれている選手が1軍にいて、その中でどうやって生きていこうかと、まず僕なら考えています。1軍に足りないピースじゃないと、そこには食い込んでいけない。平等ではないですけど、チャンスはありますから。危機感を持ってやっているのは分かりますけど、僕らから見ると薄いですよね」

 今季から球団は4軍制を導入した。支配下の枠は70人だが、育成選手は増えた。1軍の戦力どころか、2桁の背番号を勝ち取る“倍率”も高いだけに、選手はより明確なビジョンを持って日々を過ごさなければならない。「けっこう打ち込んだ後でもB組が室内を“ジャック”しているときもありましたよ」と姿勢は評価する。時代の変化をしっかりと踏まえながら、明石コーチは若鷹たちにメッセージを送った。

「ギラギラした方がいいと思います。若い時しかできないですから、それは。『俺を出せ』くらいの気持ちでいないと。それは、いろんなもの(声や意見)が飛んできますよ。自分もそうでした。でも若い時の方が弾き返すパワーがあることも確かなので。『やりすぎやからやめろ』っていう選手もいますよ。それくらいの気持ちは大事にしてほしいです」

 出る杭は打たれるのが、この世界。ただ抜きん出ようとする情熱は、若い頃だから持てる貴重な気持ちだ。「年を取ってきたら、自分でわかってくるんです。これなら厳しいかもしれないというのが自分でもわかってくる」。年を重ねるごとに理想との距離感をつかめてしまい、どこか夢を諦めがちになっていく。ギラギラの気持ちを持てること自体が才能なのだ。

(竹村岳 / Gaku Takemura)