徐若熙が所属していた味全ドラゴンズが秋季練習に参加
タマスタ筑後の秋季練習でホークスは、台湾プロ野球・味全ドラゴンズとの合同練習に励んでいます。徐若熙投手が昨シーズンまで在籍していた球団。鷹フルでは、葉君璋(イエ・ジュンジャン)監督を単独インタビューしました。18歳だった徐との出会い、思わず雄叫びをあげたドラフト秘話、昨オフに繰り広げられた争奪戦の舞台裏、そして右腕が流した涙の真意まで。“台湾の至宝”はホークス入りを「心に決めていたと思います」――。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
若鷹が鍛錬を積むタマスタ筑後で、見慣れない赤色のユニホームを着た選手たちが白球を追いかけている。ホークスとドラゴンズ、両球団の縁をつないでくれたのも徐の存在だった。葉監督は、合同練習に至った経緯を明かす。
「若熙が、味全からソフトバンクに行ったという縁があったからこそ、私たちにこのような機会をいただけました。常に『世界一』を掲げている日本の強豪チーム。彼らがどんなふうに練習をして、どんなシステムで管理をしているのか。確立された最高のノウハウをぜひ学びたかった。秋季キャンプはオフシーズンで、時間を作れる最初のタイミングだったので。ここから学ばせていただこうと」
現役時代は捕手としてプレーし、代表チームに選出された経験もある。2019年にドラゴンズの監督に就任すると、同年のドラフト1位で入団してきたのが徐だった。プロ入り前から熱視線を送っていた右腕は、最速158キロを投げるまでに成長を遂げ、昨年オフにポスティングシステムを用いて移籍を決断した。「監督」という立場だからこそ語ることができる、徐若熙争奪戦の舞台裏を明かした――。
会員になると続きをご覧いただけます
この先で分かる3つのこと
「1年待って」ドジャースを断り鷹を選んだ争奪戦の裏側
「若熙が目当てじゃなかった」偶然の出会いから結ばれた縁
「原因を掴めず苦しんだ」西武戦で徐若熙が流した涙の真意
ドジャース「もう1年待って」…知られざる高校時代の“縁”
「実はドジャースも彼を熱心に追っていてくれたのですが、MLBの契約金のルールもあり『もう1年待ってほしい』という打診だったんです。しかし、本人もソフトバンクの熱意を知っていたので。早い段階から『ソフトバンクに行こう』と心に決めていたんだと思います」
大谷翔平投手や山本由伸投手を擁する世界最高峰の球団。なぜドジャースは右腕の存在に目をつけていたのか。その縁は、徐が18歳だった高校時代にまで遡る。
葉監督は右腕の出身高である平鎮高を視察に訪れていたが「実は若熙が目当てではなかったんです」と明かす。台湾屈指の強豪校には、ほかにも有望な選手が在籍していた。「同じ学校に劉基鴻(現・味全)や、ヤンキースが注目していた李晨薫(現・米ジャイアンツ傘下)がいましたから。私はドジャースのスカウトに頼まれて、李晨薫の視察に同行しただけだったんです」。
グラウンドを見渡していると、しなやかな腕の振りで力強い直球を投げ込むピッチャーが目に飛び込んできた。それが、徐だった。「現地の監督からも『すごくいいですよ。どうですか?』と勧められ、彼を初めて知りました。体のバランスが非常に素晴らしかった。運動能力の高さはもちろんですが、学習能力や飲み込みのスピードが速い。これが彼の最大の才能だと感じました」。54歳の指揮官は懐かしそうに振り返る。
その後、徐若熙の名前はどんどん広がっていく。米国で行われた大会に参加した際も、ドジャースのスカウトは視察に来ていた。「そのスカウトからも『若熙がめちゃくちゃいい球を投げているぞ』と連絡が来たんです。そこで我々もドラフトでの獲得を決めました。肘の不安もあって他球団は躊躇していたのですが、それは逆にチャンスだと思ったので」。世界に知れ渡った右腕の存在。MLBの名門チームが評価するほどのポテンシャルは、高校時代から花開き始めていた。
迎えた運命のドラフト会議。徐を指名する青写真を描いていたが、その胸中はソワソワとしていた。
「ドラフト当日は本当に面白かったですよ。私たちは1巡目で劉基鴻、続いて若熙を指名する計画でした。ただ、私たちの直前に控えていたのが台湾楽天。リリーフ投手を獲得するかもしれないという情報もあり、若熙をさらわれるんじゃないかとヒヤヒヤしていました。でも楽天は別の選手を指名してくれたので、控室でみんなで『よっしゃー! 獲れた!』と飛び上がって喜びましたね」
高校時代からつながっていた“赤い糸”。徐と葉監督の縁は、ついにプロの世界で結ばれることとなった。
5月4日の西武戦で7失点…右腕が流した涙
度重なる右肘の故障も乗り越えながら、ドラゴンズで成長を遂げ「台湾の至宝」とまで呼ばれるようになった。昨年オフ、日米球団による争奪戦の末にホークス入りを決意。背番号18を与えられ高い注目度を集めたが、その歩みは順風満帆ではなかった。
5月4日の西武戦(ベルーナドーム)、先発した右腕は4回を投げ14安打7失点の乱調。2回を終え、マウンドからベンチに戻る際には目に涙を浮かべていた。ホークスに移籍してからも、毎登板の映像をチェックしているという葉監督。だからこそ、右腕が見せた涙の真意がわかる。
「普段は内向的でシャイですが、ものすごく強い野心や負けん気を秘めているんです。重要な試合ではその闘争心が表に出てきますし、打たれると自分に対して『なんでできないんだ』と怒りをぶつけるタイプですね。打たれた原因がわかっていると怒るだけですむかもしれませんが、その理由がわからなかったら深く落ち込んだり、悔しがったりもします。春先に涙を見せた時は、彼の中で原因を掴めずに苦しんでいたんだと思いますね」
指揮官から投球の動画を送り、フォームの中で“クセ”が出ていたことも指摘したという。捕手出身ならではの観察眼を光らせ、愛弟子に助言を送った。「あとは配球ですね。若熙自身も『台湾ではこの配球で仕留められたのに、日本に来てからは上手くいかない』と話していました」。結果的にホークス1年目の今季は8試合に登板して2勝3敗、防御率4.81という成績に終わった。秘めている能力を知っているからこそ、右腕に寄せる期待も大きくなる。
「ドラフトの時も私が直接高校まで見に行って引っ張ってきた選手ですし、ソフトバンクに行くまでずっと一緒にやってきましたから、彼のことはよく理解しているつもりです。若熙は台湾だけに留まるような器ではないと思っていましたので、より高い舞台で勝負してくれることは指導者として本当に喜ばしいことです。自分の能力でどこまで登りつめられるか見てみたいですし、世界一のピッチャーになってほしい。どこまでも応援し、見届けていきたいと思っています」
来季がホークスで戦う2年目のシーズン。自分を育ててくれた恩師のためにも、海の向こう側にまで届くような活躍を見せる。