「投手の枚数が難しい中で」…倉野コーチと重ねたシミュレーション
ソフトバンクは28日、みずほPayPayドームでの「SMBC日本シリーズ2026」 第4戦に勝利し、2年連続の日本一に輝いた。今季は球団の福岡移転後初となるパ・リーグ3連覇を成し遂げると、日本シリーズではDeNA相手に4連勝で2年前の雪辱を果たした。「鷹フル」では編成部門の責任者である三笠杉彦取締役GM(以下、三笠GM)の独占インタビューを実施。現場を預かる小久保裕紀監督のチームマネジメント能力について明かし、指揮官に起きた“変化”についても言及した。
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日本ハムとのクライマックスシリーズファイナルステージから怒涛の7連勝で2年連続の日本一を成し遂げたホークス。編成のトップとして今季のチームをどう見つめていたのか。三笠GMが絶賛したのは、グラウンドを預かる指揮官の手腕だった。
「本当に素晴らしいマネジメントだったと思います。今年は特に投手の枚数が難しい中で、投手コーチともよく相談をしながらやってくれたんじゃないかなと思います」
今年のホークスは特に先発陣のやりくりに苦しんだ。故障や不調での登録抹消が重なり、夏場は2週間先の先発ローテーションすら組めない状況だった。倉野信次投手コーチ(チーフ)兼ヘッドコーディネーター(投手)と日々、シミュレーションを繰り返す。パズルを埋めるようにローテを組み替え、なんとか白星を積み重ねていった。
そんな事情も相まって進んだのが、喫緊の課題とされてきた世代交代だった。毎年のように勝利を求められるチームにおいて、最も難しいとされる作業。その決断の連続の中で、三笠GMは指揮官の“ある変化”を見ていた。シーズン序盤にベテラン起用を優先した背景、そしてシーズン前に計算していた「貯金28」の意味とは――。
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この先で分かる3つのこと
世代交代を進める中で小久保監督が抱いた葛藤と決断
長谷川コーチの打順案を小久保監督が受け入れた理由
三笠GMが明かす優勝をもたらす「貯金28」の数式
「城島CBOと小久保監督がよく話し合ってやってくれています」
「我々のように、毎年勝ってほしいとお願いしているチームこそ、世代交代が難しくなるということは一般的にはあると思う。そこをどうしていくかというのは、城島(健司)CBOと小久保監督がよく話し合ってやってくれています。城島CBOがコーディネーターから育成の状況をよく聞き、把握している。そして1軍で戦っている小久保監督と話をして、決めていってくれている。小久保監督のマネジメントも素晴らしい」
結果は、シーズンを通して表れた。投手では大津亮介投手や前田悠伍投手、松本晴投手が先発ローテを担い、ルーキーの鈴木豪太投手も貴重な中継ぎとしてチームに貢献した。野手では正木智也外野手が28本塁打を放ち、脅威の1番打者として定着。庄子雄大内野手が遊撃手としてチームで最も多くスタメンに名を連ねた。ポストシーズンでも前田悠、松本晴が先発を担い、鈴木は火消し役として活躍。庄子はCSファイナルステージのMVPに輝いた。
その一方で、長らくチームを支えてきた選手たちは世代交代の波に押された。中村晃内野手は6月9日に出場選手登録を抹消され、今季限りでの現役引退を決断。ポストシーズンを待たずに、キャリアに終止符を打った。今宮健太内野手も庄子、川瀬晃内野手らに出番を譲るようになり、不振で2軍降格となった山川穂高内野手は1軍昇格後も出番は限られている状況だ。
三笠GMはここに、小久保監督自身の“大きな変化”を感じるという。
「監督自身も現役時代、“ベテラン選手としての起用”を経験している。シーズン序盤はベテランを我慢して起用しながら、どこかのタイミングで決断をして若手を使っていくといった『チームの短期的な成果』と『中長期的な強化』を視野に入れながら運用をしてくれました。『怪我があっても143試合に出ることがプロ野球選手』という強い思いを残しつつも、次世代の中心選手になるチャンスがある人にはしっかり機会を与える。そういった面を柔軟に考えられるようになったと思います」
確かに開幕から2か月ほどは、実績のある選手を起用するケースが中心だった。山川や今宮がスタメンに名を連ね、中村晃を勝負どころの代打で送り出した。だが、打率1割台と低迷していた山川を6月1日に登録抹消すると、中村晃も同9日に降格。今宮もスタメンの機会が減り、7月に入ると急速に出場を減らしていった。まさに指揮官の「我慢」と「決断」のタイミングだった。
「打順も長谷川コーチの提案をほとんど受け入れてる」
プロ野球の監督というと、その日のオーダーを決め、試合の中で打つべき策を案じ、投手の継投を決断する――。勝つためにチームをどう運営するかが仕事だと連想されるが、三笠GMいわく、球団として監督に求めているのは別のところにもあるという。
「将来性に見込みがある選手を使う、実績があるから使うというような話と、チームがどのような結果を出していくかというのは生き物みたいなものですから。どんなに考えてやっても上手くいかなかったり、苦労が絶えないことだと思います。まさにそういう部分も含めてプロ野球の監督。例えば試合の中でバントをするかどうかを考えて決めるというよりは、週6試合、全部で143試合ある中での“起用の妙”みたいなところが、基本的にお願いをしてるところです」
シーズンを通して、どう用兵をしていくか。リーグ優勝を勝ち取るために目の前の試合を戦いつつ、中長期的に常勝チームを作るための育成や底上げも同時に行っていく。中でも、最も苦労するのが「選手とどう向き合っていくか」だ。
「誰を使うか、誰を使わないか。どういう理由があって使わないかといった話を(選手本人に)したりとか、逆にしなかったりというようなところが骨が折れる仕事。僕らは若い選手の育成という観点を中心に準備をして環境を作り、監督はそういった色んな“サジ加減”をする。小久保監督は『決断をするべきことは何か』ということをちゃんと把握されてやっていただいている」
その視線は、選手だけでなくコーチ陣にも向けられていた。
「コーチの意見をよく聞かれているという面もあります。自分で決めたことをコーチにやってもらうというよりも、成長を促しつつ、意見を採用しながらやられている。打順についても打撃コーチの提案をほとんど受け入れていると言っていましたし、そういうところを凄く意識してやられているのは素晴らしいなと思っています」
今季の打順は長谷川勇也打撃コーチ兼スキルコーチが中心となって組み、小久保監督に提案してきた。この提案を指揮官はほとんど受け入れ、口出しすることはなかったという。コーチに考えさせ、意見を求め、決断と責任は監督が負う。それもまた、2026年の小久保監督が見せたチームマネジメントだった。
「週に1個、勝ち越しができれば、必ず優勝する」
シーズンの入り口で、GMと小久保監督の間には一つの“共通認識”があった。
「監督と話をしていたのは、シーズン前半はある程度大きな人数で1軍の起用を回しながら、最後は(人数を)絞っていく。プロ野球は長いので。終盤はもう勝ち切るための起用でいいと思いますけれども、前半の70試合くらいまではより大きなスカッドでやる。若手はそこでチャンスを得たら、そのまま行けばいいし、ベテランであれば怪我があるならしっかりと休みながら、終盤に向けて勝負をかける。怪我の早期発見、早期予防が重要で、万全の状態の選手をぐるぐる回していくというのがプロスポーツのオペレーション。レギュラーがガチッと固まってフルで試合に出ていくということではなくて、たくさんの選手で回していって、勝ちを拾っていこうと考えていました」
チームが目指すのはリーグ優勝、そして日本一。それを成し遂げるための最善の策は、能力があり、かつ状態のいい選手を常に起用し続けることになる。
その根底には三笠GM、そしてホークスが描く極めてシンプルな「数式」がある。
「プロ野球は週に1個でも勝ち越すことができれば、必ず優勝するスポーツ。僕らは、このグラフを作っているんです。シーズンは交流戦を含めて28週くらいあるんですよね。週に平均1個の勝ち越しで貯金28。それで勝率は6割を超えて、だいたい優勝なんです」
1週間に1つの貯金。小久保監督が常々口にしてきた“勝ち越し”の根拠は、ここにある。その積み重ねが3連覇として結実し、2年連続の頂点へと繋がった。1試合の采配ではなく、シーズン全体を俯瞰する視点。ベテランへの「我慢」と、次世代を押し出す「決断」。編成部門が整えた土台の上で、指揮官が下し続けた無数の判断こそが、2年連続日本一の偉業につながった。
(福谷佑介 / Yusuke Fukutani)