早朝に響いた「カツン、カツン」
打撃の「きっかけ」を求めて必死にもがいている。大きな期待を背負いながらも、決して言い訳をせず、ただひたすらに己の肉体とバットに向き合い続けるのがイヒネ・イツア内野手だ。そして、その姿に誰よりも心を揺さぶられている1人の男がいる。
「きっかけを与えられないのは、こっちの責任」とまで言い切り、並々ならぬ期待をイヒネに寄せているのが荒金久雄コーディネーター(野手統括)だ。背番号36のストイックな姿勢に驚かされることがしばしばあるという。そしてイヒネ自身がこぼした「自分の人生」という言葉に込められた覚悟とは何なのか――。
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この先で分かる3つのこと
指導者の配慮に対してイヒネが返した覚悟の一言
試行錯誤の日々で本人が掴もうとする覚醒の条件
体を大きくする肉体改造の狙いと「来季」への覚悟
「朝5時半に僕がクリーニングを取りに来たら『カツン、カツン』って音がして。部屋を開けたら朝日が上がる中で、イヒネがトレーニングをやっていたんですよ。多分、5時くらいからすでにやっていたんじゃないかな」
どこか愛おしそうな眼差しでこう語ったのは、荒金コーディネーターだ。フェニックス・リーグが行われている宮崎の宿舎で、早朝からトレーニングを行うイヒネの姿があったという。脂っこい肉やジュースなどの摂取を避け、時間を見つけてはひたすらバットを振るイヒネの姿を知る男は、「戦う準備は本当に100点満点なんですよ。あとはきっかけを与えられないのは、こっちの責任」とまで語る。
ストイックさが逆にイヒネの成長を妨げないよう、「お菓子買ったろうか」「もう少し寝てろよ」と冗談交じりに声をかけることもあるという。その言葉は、厳しいプロの世界で必死にもがき続けるイヒネの心を少しでも軽くしてやりたいという“温かな親心”そのものだった。
納得して練習を切り上げることはない
当のイヒネは周囲の温かい心遣いに感謝しつつも、決して自分を甘やかすことはない。納得して練習をやめる瞬間はいつまでたっても訪れることはないという。
「全然納得しないです。納得していないけど、もう息が上がって、これ以上は振れないってなることが多いです。ずっとフルスイングしていたら吐きそうになったりするので。そこで練習を辞める時もあるし、『バーン』って連続で良い打球を打てたら終わりという時もあります」。ゼリー飲料やプロテインだけを胃に流し込み、早朝から人知れず打撃練習を行う22歳。自分自身をどこまでも追い込んでいる。
荒金コーディネーターの「こっちの責任」という言葉に対しても、強い意志を込めてこう返した。「責任とかはないですよ。だって結局、自分の人生なんで。誰かのせいだと言ってクビになっていったらバカみたいじゃないですか」。
1軍の壁や厳しさを肌で感じたからこそ、ただ闇雲にバットを振るだけでは通用しないことも痛感している。バッティングフォームを変え、試行錯誤を繰り返す日々の中でも、イヒネが求めるのは一瞬の感覚ではない。「1個か2個かは分からないですけど、掴んで離さなくなった時に、活躍する未来が見えるのかなと思います」――。掴むだけでは意味がない。それを継続することの難しさも理解している。だからこそ、もがき続ける。
「それでも試合では打てていないので、野球って難しいなって思います」
見据える来季へのプラン…体脂肪率12%へ
打撃の向上と並行して、肉体改造のビジョンも明確になってきている。現在の体脂肪率はわずか8%前後。最大の武器でもあるスピードを落とさないまま、体を大きくするプランを描いている。「来年の2月くらいまでには12%くらいにしようかなと。脂肪を増やすんじゃなくて、体を大きくして今くらい走れるのが理想です」。パワーを上乗せして、打撃の質も高めていく狙いだ。その体づくりにも余念はない。
メンタル面では「まだまだ未熟で全然怒られる」と苦笑いを見せるものの、その芯にある志は誰よりも高い。「来年打てなかったら正直やばいので」。練習量の先に、必ずきっかけが転がっているはずだ。周囲の大きな期待を背に、大きな花を開かせる未来が楽しみだ。
(飯田航平 / Kohei Iida)