藤原が入団時に言われていた「肩肘新品」
「すごいです」だけに留めた言葉に、右腕の悔しさがにじんでいた。6日に行われた韓国・サムスンライオンズとの3軍戦(みずほPayPayドーム)。久しぶりの実戦マウンドに上がった藤原大翔投手が投げ込んだ直球は、最速153キロをマークした。変化球に課題は残したものの、直球の力は戻ってきており、順調な回復をアピールした。
今季、育成から見事に支配下登録を勝ち取り、5月13日には憧れだった1軍初先発のマウンドにあがった右腕。しかし、勝ち星を挙げることができずに、2敗目を喫した直後には右肘痛によってリハビリ生活を余儀なくされた。
「最初は1軍で投げた後だったので、結構きつかったです。1軍のマウンドを目標にやってきて、やっと投げられた直後の怪我だったので……」
離脱中には同学年の前田悠伍投手が1軍で快進撃を続け、12勝を挙げるまでに躍進。その姿を寮の食堂にあるテレビ越しに見ていた。右腕が口にしたのは「すごいです」の一言。無口な20歳の背中に寄り添い続けた奥村政稔2軍投手コーチは、言葉の裏に隠された思いを見逃してはいなかった。リハビリ期間を過ごす中で、藤原は何を目標にし、今後へと繋がる時間をどう過ごしてきたのか――。
会員になると続きをご覧いただけます
この先で分かる3つのこと
前田悠伍が藤原大翔の1軍昇格時に抱いていたであろう思い
「増えてねぇじゃねぇか」体重計の上で交わした師弟の約束
怪我の苦しい期間を藤原が「良かった」と言い切る理由
「ホークスに入った時、僕は育成で悠伍はドラ1。とりあえず追いつきたいという気持ちがあったので。そう思ってずっとやっていましたし、一緒に1軍でやれるチャンスだなと思っていたんですけど……。怪我をしてしまいました」
藤原が初登板を果たした3日前、前田悠伍は今季初勝利を挙げたばかりだった。藤原にとってはようやく同じ土俵に上がるチャンスだっただけに悔しさが残る。その後も背番号41は快進撃を続けた。無傷の12連勝を記録するなど、1軍投手陣に欠かせない存在へと進化した。「めっちゃ見ていましたよ。ご飯を食べながら、食堂のテレビでずっと見ていました」と藤原は振り返る。
「絶対増やせ」体重計の上で交わされた約束
リハビリ期間であっても、奥村コーチは藤原の状態を常に気にかけていたという。「入団した時から『肩肘新品』と言われていた藤原だけど、こういう怪我は初めての経験だからね。この期間で覚えることもいっぱいあるやろうなと思って」。藤原の課題はフィジカル面にもあった。「体は絶対でかい方がいいので」。リハビリに入る直前に藤原を体重計の上に乗せ、その後も体重が増加しているかを奥村コーチはチェックした。
「『増えてねぇじゃねぇか』とか『全然食わんもんな』とか、半分冗談も言いながらね。この時間を大事に過ごせたらいいなと思っていたし、ちょくちょくチクチク言ってきましたね」。リハビリに入る頃は73キロだった体重が、今では76キロまで増加。遠回りにも見えるリハビリ期間で、怪我に強い体を作るための時間にした。奥村コーチにとって藤原と前田悠は、コーチ1年目から見てきた選手でもある。そのことからも2人に対する期待は大きい。
「悠伍も『あ、藤原が1軍に来た』って思ったはずなんです。もしかして自分の職が奪われるんじゃないかという危機感は絶対にあった。だから面白くなりそうだなと。そこから悠伍は勝っていったけど、藤原も『自分だってああなれていたかもしれない』という思いにはなっていたはず。そこのライバル関係はずっと続いてほしいなと思うんですけどね。来年の開幕から、あいつらが1軍にいたら相当面白いと思うので。それができる力があるし、そうなってくれたらこっちも楽しみが増えるので。ワクワクしますよね」
藤原自身はリハビリ期間を「トレーニングを集中してやれるようになって、体重も増えてきたので。いい期間になったかなと思います。まだまだフィジカルが足りないということを感じられたので、それは良かったです」と語る。怪我の苦しさを「良かった」と言い切れるたくましさを得たことも、大きな収穫だ。遠回りをしたからこそ、手に入るものだってある。「すごいです」と語るに留めた言葉に悔しさがにじむが、その気持ちは糧になる。来季は必ず前田悠と肩を並べて投手陣の中心になる。そんな瞬間を誰もが心待ちにしている。
(飯田航平 / Kohei Iida)