7回無死三塁のピンチから打者3人をアウトに
一球一球、マウンドを降りて捕手からの返球を受け取る。最大のピンチを迎え、明らかに前のめりとなっている右腕の姿は、まさに熱い闘志を表していた。「空白の3か月」を経て、東浜巨投手が“思い出した”感覚。「ここが勝負所だな」――。36歳の全身を満たしていったのは、久しく味わっていなかった高揚感だった。
18日に行われたファーム・リーグの阪神戦(タマスタ筑後)。初回に先制点を与えたものの、その後は粘りながらゼロを並べた。雨が降りしきる中、1点ビハインドの7回もマウンドへ。先頭打者が放った飛球は、左中間に高々と舞った。左翼の石塚綜一郎捕手がグラブに当てながらも捕球できず。痛恨の失策で無死三塁となった。右腕の集中力が増したのはここからだ。
左打者の小幡を外角のシンカーで空振り三振。百崎の痛烈な打球を遊撃のイヒネ・イツア内野手がさばくと、本塁を狙った三走を刺し、2つ目のアウトを奪った。最後は佐野を空振り三振に斬り、逆転勝利へとつなげた。
チームの勝利はもちろん、ミスを犯した石塚のためにも――。背番号16は、1点も許されないピンチでどんな心境を抱いていたのか。マスクを被る若鷹のプレッシャーを軽くするために、36歳のベテランはマウンド上で“気遣いの言葉”を伝えていた。
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東浜巨が大友宗に伝えた言葉「思い切っていこうと」
「シーズンを戦っていれば、1軍はもちろんですし、大事な試合でああいった展開は必ずある。僕はそれを久しく感じられていなかった。ここが“勝負所”だと思いましたし、お互いにカバーをしながら、チームの勝ちにつなげるのがホークスの野球。僕らが培ってきたものだと思うので、自分の中でもスイッチ入れていましたね」
5月から8月にかけて、右肩の不調でリハビリ生活を送っていた。通算76勝を挙げ、数々の経験を積んできた背番号16にとって、この日の重圧は“思い出す”に近い感覚だった。「結局はイヒネと大友のファインプレーに助けられました。そこは今日のキーポイントでしたね」。感謝を忘れないところも東浜らしい。「疲れた状態の中で、ああいう場面をしのげたのはよかったですね」と充実の汗を拭った。
7回無死三塁となったところで、バッテリーを組む大友宗捕手がタイムを取り、マウンドにやってきた。プロ14年目の東浜と、2年目の大友。緊張感があふれるこの場面で、後輩を引っ張るために、背番号16が伝えた言葉はシンプルだった。
「1点はしょうがないから」
フェアゾーンに打球が飛べば、2点目が入る可能性が高いシチュエーション。追加点を与えるつもりはなくても、東浜がそう伝えたのには理由がある。「『抑えないと』と思う方が視野が狭くなる。若いキャッチャーですし『思い切って行こう』という話はしました」。厳しいところを攻め、自分たちを苦しめる配球になってはいけない。伸び伸びとサインを出せるような言葉をかけたのは、36歳なりの“気遣い”でもあった。
バックスクリーンへの一発「気持ちよかった」
打線は8回に四球と敵失でチャンスを作り、大友がバックスクリーンへ3ランを放った。「最高に気持ちよかったですね。当たった瞬間に『行った』と思いました」。7回のピンチをゼロでしのいだからこそ、生まれた逆転劇。ミットを通じて、東浜が投じる一球一球からは伝わってくる思いがあった。
「『やれることをやろう』と言ってもらえたので。ランナーじゃなく、バッターに集中できたのかなと思います。巨さんは初回からマウンドを降りる最後まで、ずっと丁寧に投げていたんです。厳しいところをボールと言われても、我慢し続けたからこそ1失点で帰ってこられたと思う。他の投手と組む時も、僕がキャッチャーとしてそういった意識づけができるように。そういう意味でも、とても勉強になった試合でした」
大友は今季、外野守備に挑戦した時期もあった。持ち前の打力を活かすためではあるが「こだわりがあるのはキャッチャーです」とキッパリ言い切る。マスクを被り続けるごとに「扇の要」の奥深さを実感しているところだ。
「簡単に『楽しい』とは言えないんですけど、投手とコミュニケーションを取って、どう抑えていくか。次の打席でどうしたらいいか、そのためには1打席目に何を投げておかないといけないのか。去年よりも考えられることが増えた感覚はあります。もっと面白くなってきたと同時に、もっと難しくなってきました。それがキャッチャーなのかなと思いますね」
1軍がリーグ3連覇を果たし、2軍もファーム・リーグ西地区での優勝を決めている。そんな中でも、微塵の隙すら見せなかったバッテリー。「消化試合」という雰囲気は、グラウンドに一切流れていなかった。「無駄にする時間はない。選手でいる間は、順位が決まろうと最後までやり抜くのがプロです」。そう語る東浜巨の存在は、やはり心強い。
(竹村岳 / Gaku Takemura)