笹川が伝えた思い…「ホークスで活躍したい」
ホークス2軍は16日、ファーム・リーグ西地区優勝を飾りました。鷹フルでは選手はもちろん、首脳陣にもスポットライトを当てながら2026年シーズンを振り返っていきます。今年から2軍監督に就任した斉藤和巳監督と、大器と期待されながらも大きな壁に直面している笹川吉康外野手。監督室に響き渡った“怒鳴り声”。「それでも変わらへんのか」――。本気でぶつかり合い、葛藤の末に生まれた2人の“変化”に迫ります。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
自分の情けなさに打ちひしがれ、逃げ場を失った末の行動だった――。5月下旬、野球道具に当たったことで笹川は、一時はスタメンはおろか、ベンチ入りさえ許されなかった。規格外のポテンシャルを持ちながら、才能を発揮できずにいるのは「心」の部分によるところが大きい。感情をうまくコントロールできずにいた背番号44と真正面から向き合ったのは、斉藤監督だった。ただの懲罰ではない。そこにあったのは、失敗した後も変化を見せきれずにいる愛弟子に対する、“魂の直接対決”だった。
「コーディネーターも困っていたと思うけど、吉康の前で『使わない』と伝えた。本人には『お前が今後、どういうふうにやっていくかを俺に話してこい。その話をしにきたらいいわけじゃない。それに対して俺が納得するまでは、お前を試合で使う気は一切ない』と。そこまで言った」
指揮官が突きつけた冷徹なまでの宣告。笹川は言葉を濁し、時には不満を覗かせながら監督室のドアを叩いた。怒号が響き渡った密室で、2人はどんな言葉を交わしたのか。「1番ブチギレた。監督室で怒鳴り散らした」――。斉藤監督はなぜそこまで感情を爆発させたのか。笹川が再びグラウンドに戻ってくるまでの日々、そして「今」に迫った。
会員になると続きをご覧いただけます
この先で分かる3つのこと
・斉藤監督が激怒した笹川の姿勢…課した“二段階の試練”
・指揮官を呆れさせた笹川の「無自覚な質問」と切実な本音
・愛弟子と距離を置く斉藤監督が思わず漏らした寂しい本音
監督室に響き渡った本音の怒号「1軍で何をやらかしてきたんや」
「『お前が変わらへんからこうなってんねん。それだけの能力を持っていて、今年お前は1軍で何をやらかしてきたんや。それでも変わらへんのか』って。自分の気持ちを全部ぶつけた」
今シーズン、指揮官が「一番ブチギレた」と振り返る一幕だ。5月14日に1軍の出場選手登録を抹消された背番号44。5月20日の阪神戦での行動がきっかけで、翌日から“無期限”でベンチを外れることになった。
練習に取り組む姿勢、試合で守らなければならないチームのルール、言動――。これからどう変わっていく必要があるのかを、指揮官は笹川の言葉で確認する必要があった。この期間で笹川は自らを見つめ直し、将来についても真剣に考えた。その結果、辿り着いた思い。ハッキリと指揮官にこう伝えた。
「やっぱり試合に出たいし、ホークスでやりたいと思っているので。その行動を続けていたら、ホークスに居ることすら危ういというか、チームの方針を守れなかったら試合にも出られない。試合に出られなければ、ホークスにもいられなくなる。僕はホークスで活躍したいし、レギュラーになりたい。今もらっている給料が当たり前じゃないし、野球ができなくなったらこれだけ稼ぐことも難しいので。そこを考えて、しっかり頑張っていこうと感じました」
指揮官が与えた“二段階”のプロセス
笹川の言葉を聞いた指揮官だが、すぐさま試合に出場させる許可は出さなかった。「監督は『言葉は受け取った』という感じでした。すぐに戻れるかなと思ったんですけど、『次は行動で示せ。行動で信用を得ろ』と言われて。まずは練習参加からでした」。2軍で日々行われているミーティング。ベンチに入れない期間、笹川は悪気もなくそこに参加せず、ウエートトレーニングを行っていたという。
「何がダメだったんですか?」。そう尋ねた笹川に対し、斉藤監督は「それを聞いてくる時点でダメだ」と言い切った。真っ正面からぶつかり合った2人。「みんなに守られてここまできて、それで変われないならそういう方向をとるしかない」。不器用な若手と、甘やかしを一切排除した指導者が感情をむき出しにして火花を散らした。ようやく笹川が試合に出場したのが、6月3日の阪神戦(SGL)。9回に代打で起用されると、翌日の同戦からはスタメン出場を果たした。
指揮官の胸にある複雑な思い…「寂しさもある」
一切の妥協を排除して24歳と向き合った斉藤監督だが、胸中には複雑な葛藤が渦巻いていた。「俺が色々と言うことが、逆にあいつの人生の邪魔になっているかもしれない」。自問自答を続ける毎日。一人の人間として自立してほしいという思いは一切変わらないが、悩み抜いた末に斉藤監督は“付かず離れず”の距離を取ることを決意した。冗談を言い合うことも減り、大切なことだけを諭すように伝える日々。「まぁ、寂しさもあるよ……」。漏らした言葉には、親心にも似た苦渋の決断が感じられた。
一方の笹川も自分自身を見つめ直したことが、姿勢やプレーはもちろんのこと、結果にもつながりはじめた。「3打席目までダメでも、『4打席目にヒットを打てばいいや』とか。前より感情をコントロールできるようになりました。だから連続安打とかも打てたと思います」。人一倍悔しさを感じる男が、その波を自らコントロールできるようになったことが最大の収穫だった。
「選手として一人前になってほしいという監督の気持ちが、一番胸に響いた」。素直に感謝の言葉を口にした笹川の姿こそ、斉藤監督が下した決断が正解だったことを物語る。「お前の評価はこうで、こういうところを見られているんやで。だから、そういった部分をちゃんとしといた方が目指してるところには行きやすいよ」。指揮官が伝えたかった思い。最後は自分で決断して歩む――。厳しさだけではない教えを胸に、大砲はこれから大きく羽ばたくはずだ。今シーズンの出来事は、笹川の野球人生の大きなターニングポイントになるかもしれない。
(飯田航平 / Kohei Iida)