7回1失点…リーグ単独トップの12勝目
ちょうど1週間前、帰宅が深夜に及んでも21歳は球場を離れなかった。前田悠伍投手が秘める圧倒的なプロ意識と妥協なき姿勢が、リーグ単独トップとなる価値ある12勝目を手繰り寄せた。
11日に行われたロッテ戦(みずほPayPayドーム)。初回は2安打と内野ゴロの間に先制点を献上したが、2回以降はリズムに乗った。「初回もなんとなくいけそうだなと。インコースの球が甘くなって打たれたので、そこさえ修正すればと思っていました」。5回と7回にピンチを作ったが、ホームは踏ませない。7回1失点、自己最多の9三振を奪う力投でチームを4連勝に導いた。
前回登板となった4日の西武戦(同)。先発マウンドに上がった前田悠だが、3回1/3を投げて2失点で降板した。チームは勝利したものの、本人は「短いイニングで降板してしまい、チーム、中継ぎの方に迷惑をかけることになってしまった。2度とこのようなことがないようにしたい」と悔しさを隠さなかった。
前田悠の執念が現れていたのは、その試合後だ。悔しさのあまり、登板後であっても無心で練習を続けた姿――。人影が消え、静まり返った球場内の一室で黙々と汗を流す。“2人きりの空間”には、プロとして妥協を許さない熱い空気だけが流れていた。
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この先で分かる3つのこと
深夜まで黙々…岡本SCが見た前田悠伍の冷静な素顔とは
登板2日前に行った工夫…前田悠伍がマウンドに立った理由
一流へのアドバイス…岡本SCが前田悠伍に寄せる願いとは
試合後に悔しさも…忘れなかった客観的な視点
「課題はもう、その日のうちに全部洗い流すというか。登板翌日からしっかりと向き合えるようにはしていました。100%ではないんですけど、中6日の間に修正はある程度できていたので。あとは試合の中で、細かいところかなと思っていました」
登板した試合後には、ウエートトレーニングに励むのが左腕のルーティン。西武戦が終わった後も数人の選手がトレーニングに励んでいたが、1人、また1人と帰路に就いていく。最後まで残っていたのは前田悠と、岡本正靖1軍ストレングス&コンディショニング(SC)の2人だけだった。
響くのは器具を床に置く音、そしてボールを壁にぶつける音だけ。「もう終わります。あとはアイシングします」。左腕がそう口にしたのが午後11時20分ごろ。試合終了から2時間30分が過ぎようとしていた。「次の日は寝不足でしたよ」。笑って振り返った前田悠。当時の状況を岡本SCが具体的に振り返る。
「自分が思うように投球できなかったというイライラ感があった気はしました。でも、客観的ではいたんですよ。『もういい』という感じはなくて『これが良くなかった、上手くいかなかった』とすごく冷静に自分を観察していたので。自分で課題を見つけたり、より良くしたいという思いが常にある選手なので。コンちゃん(近藤健介)や栗原(陵矢)は試合後、毎日打っているじゃないですか。ポジションや時間の使い方は違いますけど、姿勢としては同じものを感じますよね」
岡本SCはさらに続けた。「『じゃあ自分も帰るね』と。悠伍はそこからアイシングをしていたはずなので、帰ったのは日付を超えていたんじゃないですか」。納得がいくまで練習を続ける。それを支えてくれる人がいる。だから21歳の左腕は、絶対に妥協を許さない。
登板2日前にも工夫「悪いピッチングをするわけには」
11日のロッテ戦に備えて、投球練習を行ったのは2日前の9日。しかし、それはブルペンではなく、みずほPayPayドームのマウンド上で行われた。午後からは野手のアーリーワークがあるだけに、昼前にはグラウンドに姿を見せてマウンドへ。前回登板の反省を忘れず、自らの課題に向き合っていた。
「この前の試合が久しぶりの本拠地登板だったので。マウンド慣れをするために、あそこで投げました。2回連続で悪いピッチングをするわけにはいかないので。その一心で、どうにか良くするために、ずっとフォームのことだったりを考えていましたね」
5回には無死二、三塁のピンチを迎えたが、後続を打ち取って追加点を与えなかった。意識していたのは「投げミスをしない。それだけです」とキッパリ言い切る。大量得点に守られても、一切油断を見せない姿が頼もしい。小久保裕紀監督も「1週間前があまり良くなかったんですけど、あの若さでしっかり修正をかけてきたところは、大したものだなと思いましたね」と厚い信頼を寄せた。
勝ち星を重ね、12勝はパ・リーグ単独トップに躍り出た。その姿勢に岡本SCは目を細めつつも、一つだけ、左腕に対する自らの“願い”を打ち明ける。
「僕たちがその時間まで残ることによって、待っている人もいるわけですよね。ランドリーの方、警備員の方。プロ野球の試合はいろんな方の存在があって成り立っているので。そういうところにまで目配り、気配りができるようになると、もっと“大人”になれるかもしれないですよね。彼は優しいですから、きっとできるんじゃないかなと思います」
前田悠にとっても、岡本SCは「感覚も合いますし、何より話しやすいのです」と心を許す存在。たくさんの人に支えられて、白星はついにリーグトップとなった。「シーズンは残り少ないですけど、自分が投げる機会はある。そこでいい投球ができるように、また準備するだけですね」。結果的に、きっとタイトルもついてくる。前田悠が求めるものは、いつだってチームの勝利と最高のピッチングだ。
(竹村岳 / Gaku Takemura)