無失点で11勝目…野球の“流れ”を理解した7回の姿
盟友と交わした“日本一”の誓い、そしてプロ初登板で突きつけられた6失点KOの悔しさ――。その全てを原動力に変えてきた左腕が、また一つ成長の証を刻んだ。今季11勝目を挙げた前田悠伍投手は圧巻の投球を見せながらも、白星に酔いしれることはない。チームの勝利を喜びながらも、自らの小さな「隙」を猛省する姿に、この男の凄みが凝縮されている。
28日のオリックス戦で先発した左腕。初回は2死満塁とされるが、中川を左邪飛に仕留めて流れに乗った。2回以降、安打を許したのは4回だけ。7イニングを103球で投げきり4安打6奪三振、無失点で無傷の11勝目をマークした。打線は7回無死三塁のチャンスで追加点を奪うことができず、悪い流れが漂いかけたが、その直後の守備でも見事に3者凡退に抑えた。「初回から6回までの力の入れ方とは変えました。流れがいきがちなところだと思ったので、気持ちを入れて投げました」。前田悠は心地よさそうに汗を拭った。
小学校6年時にはオリックス・ジュニアに選出された左腕。京セラドームもどこか懐かしさを感じさせる球場だ。「練習したことがあります」。当時は12歳。ぼんやりと抱いていたプロへの夢が、一気に具体性を帯びた瞬間があった。地元を飛び出して出会った仲間と、前田悠は“日本一”を誓い合っていた――。
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大阪桐蔭高で同学年だった南川幸輝の存在
「滋賀県のめちゃくちゃ小さい地域でしか野球をしていなかったので、大阪や兵庫の選ばれた人と一緒にできるのはすごかったですね。そこで南川(幸輝)とチームメートになって『一緒に日本一のバッテリーになろうぜ』と言って、大阪桐蔭に行こうという話はしていました。あとは、自分にとってその時が初めての全国大会だったので。周りに負けたくなくて、いい競争ができていたのはあったと思います」
オリックス・ジュニアで出会ったのは、後に大阪桐蔭高でチームメートとなる南川幸輝捕手(現青学大)。小学生ながらに同じ高校へと進学することを約束し、それぞれの地で技術を磨いた。幼稚園の頃から憧れた「TOIN」のユニホーム。そして15歳の春、日本一という志を胸に2人は再会を果たした。
1学年上には松尾汐恩捕手(DeNA)という圧倒的な存在がいた。前田悠と南川がバッテリーを組むようになったのは、2年の秋から。“自分たちの代”となり、主将にも就任していた左腕。記憶に刻まれているのは、西谷浩一監督への異例の直訴だった。
「新チームになって、最初は南川がキャッチャーじゃなかったんですよ。送球に課題があったんですけど、僕が途中から『南川が投げやすいです。キャッチャーにしてください』と。付き合いの長さもあるし、人柄という意味でも信頼があったので。1学年上にドラ1の選手がいて“汐恩の後”で難しいところもあったと思うんですけど、いいバッテリーは組めていたと思うし、楽しかったですよ」
前田悠と松尾はチームを日本一に導いた“黄金コンビ”。ドラフト1位でプロ入りを果たした松尾の「次」を務める重圧は、左腕もしっかりと理解していた。3年夏、大阪府大会の決勝で履正社高に敗れ幕を閉じた青春時代。高校野球“最後”の試合となったこの一戦でも、バッテリーを組んでいたのは南川だった。数々の選手と呼吸を合わせてきたが、南川の存在も背番号41にとって忘れられない相棒だ。
プロ初登板はオリックス戦…今も忘れない6失点KO
ドラフト1位でホークスに入団し、プロ初登板は2024年10月1日。オリックスを相手に3回6失点とKOされた。あの日味わった悔しさが、今も左腕を突き動かす。「あれがなかったら『もっとやらないといけない』という気持ちは生まれていなかったと思いますね。あの結果があったからこそ、いつかは“お返し”というか、しっかりと勝っていきたいなという気持ちはあります」。身を持って知ったプロの厳しさは、いつだって自分だけの原動力になった。
2年の月日が流れ、因縁の相手から掴み取った初白星。初回は2死満塁を招いたものの、2回以降は危なげないピッチングを見せた。小久保裕紀監督も、試合の流れを手渡さなかった7回の投球を大絶賛し「今日は悠伍です」とキッパリ言い切る。しかし、左腕が反省点として受け止めたのが初回2死、来田の投ゴロを処理できずに内野安打としてしまったことだった。
「あれは自分のミスです。捕っていれば簡単に終わっていたと思うので、そういう面でも隙を見せないようにやっていきたいと思います」。逆シングルのショートバウンド。簡単ではない打球にも見えたが「あれは普段のノックから練習しているところなんですよ。日頃からやっていることを試合で出せなかったので、もっと練習しないといけないです」。常に課題意識を抱き、前へ前へと突き進む。この姿勢こそが、間違いなく前田悠らしさだ。
京セラドームでの白星も、3年目で初。「(自分の)タオルも多く見えましたし、“ホーム”のような感じはやっぱりありました」と頬を緩めた。3年連続のパ・リーグ制覇、そして2年連続の日本一を目指す道のり。11個目の白星を掴み、また1つ成長してみせた。チームの日本一を成し遂げ、プロの世界で“ナンバーワン”のピッチャーになる。究極の目標をかなえるまで、前田悠伍は歩みを止めない。
(竹村岳 / Gaku Takemura)