6回2失点で8勝目…1年目を塗り替えるキャリアハイに
右腕が握りしめた1球には、背負い続けた8年間の葛藤が詰まっていた。かつて耳に突き刺さった“期待外れ”という心無い声。「ドラフト1位」の重圧を知る男が、自らの手で野球人生を塗り替えてみせた。上茶谷大河投手が自己最多となる8勝目。守護神の杉山一樹投手から手渡された記念球は、苦悩の末に掴んだ新たな“財産”となった。
27日に行われたロッテ戦(ZOZOマリン)で先発登板。2回に3連打、3回にはソロを浴びて1点ずつ失ったが、それ以外はきっちりと締めた。6回2失点、9つの三振を奪う力投。「調子は良かったと思います。前半はリズムが悪く、毎回ランナーを出してしまいましたが、何とか粘ることができました」と汗を拭った。7月から先発ローテーションに加わり、6戦4勝。首脳陣の期待に、最高の結果で応えている。
今季がプロ8年目。ホークスには現役ドラフトで加入したが、プロの世界には「ドラフト1位」で飛び込んできた。東洋大からDeNAに入団し、1年目の2019年に7勝をマーク。ただ、この数字がキャリアハイの成績となっていた。SNSを通じて容赦無く投げつけられたのは耳を疑う辛辣な言葉。痛烈だったダイレクトメッセージは今も忘れられない。
「不甲斐ないことくらい、自分でもわかっていますよ」――。
苦しみ抜いた過去があるからこそ、キャリアハイの8勝目が意味するものは、上茶谷にとってあまりにも大きかった。
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この先で分かる3つのこと
「ハズレドラ1」と叩かれて…上茶谷大河が明かす苦悩の過去
ボールを投げずに肉体改造?自己最速を更新した命懸けの挑戦
自身最多8勝目を達成も…上茶谷大河が口にしたチームへの想い
1年目から結果を残した“ドラ1”の先輩たち
「当時はとにかく『勝たなアカン』と思っていました。ベイスターズのドラ1は、僕が入るまですごかったんですよ。山崎康晃さん、今永(昇太)さん、浜口(遥大)さん、東(克樹)さんと続いていた。新人王を獲ったり、すぐに侍ジャパンに選ばれている人もいたので。勝たないといけないプレッシャーがあったんですけど、7勝からできなくて、世間から『ハズレドラ1』と言われた記憶はめっちゃあります」
山崎は1年目から37セーブを挙げて新人王を獲得。今永は今やMLBを舞台に戦う日本屈指の左腕だ。浜口、東もルーキーイヤーから2桁勝利を挙げ、即戦力という期待に恥じない姿を見せてきた。上茶谷が入団当時から着用した背番号27も、通算201勝を誇る平松政次氏と同じ番号。「ベイスターズのドラフト1位」という肩書きは、右腕にとってそれほどまでに重かった。
上茶谷がルーキーイヤーの2019年に残した成績は、25試合に登板して7勝6敗、134イニングを投げ防御率3.96だった。「1年間ローテーションで回ったんですけど、規定にも到達できなかったですね」。奮闘を見せた右腕に対し、ファンの反応は厳しかった。SNSにダイレクトメッセージが届く。中でも記憶に刻まれているのが「ハズレ」という言葉だった。
明るいキャラクターの持ち主ではあるが、当時は大卒1年目の23歳。プロの世界は結果がすべてだが、心無い言葉に傷つきもした。「不甲斐ないのは『自分が一番わかっているって』と思っていましたね。次の年から絶対にやってやろうと思っていたんですけど、そこから全然上手くいかなかったのが、思い出としてはありますけど……」。度重なる怪我に、リリーフへの配置転換も経験。思い悩む右腕の“運命”を変えたのが、2024年オフの現役ドラフトだった。
“命懸け”で取り組んだ肉体改造「食事もデータ」
6年間を過ごしたDeNAに別れを告げ、新天地はホークスに決まった。昨年は2月に右肘の手術を受け、わずか8試合登板に終わった。「(福岡に来て)もう違う野球人生を歩んでいると思っているので。今、僕は“プロ2年目”です。去年何もできなかったぶん、なんとか巻き返そうと思っています」。2026年に向けて語っていた決意。「自分を変える」と胸に刻んで、“命懸け”で肉体改造に取り組み始めた。
「オフはほぼウエートで、体重と筋肉量の管理をずっとしていましたね。10月くらいから始めて、そんな簡単には変わらないので難しかったですけど。体重を維持したまま、筋肉量だけを増やして体脂肪を落とすのはけっこうハードなことなんですよ。10キロでも20キロでも、落とすだけならできるんです。筋肉を落とさないことが大事と思ってやっていました。めっちゃキツかったし“命懸け”でしたよ」
DeNA時代の最高球速は151キロ。今季はそれを更新し、何度も153キロをマークしている。自分自身に課してきた厳しいトレーニングが、しっかりと結果に結びついている証。「10月から3か月くらいかけてやってきましたけど、とにかく数字。食事もデータやと思って食べてきましたね。食べたいものも我慢しながらというか。だから(オフの間)マジでボールとか投げていないですよ」。7年をかけて乗り越えてみせた“7勝の壁”。まぎれもなく、上茶谷が貫いた努力の結晶だ。
批判された過去を乗り越えて掴んだ8勝目。心ない言葉を浴びせたファンを見返す白星になったはずだ。残り28試合、自身初の2桁勝利も見えてきたが、「それはないですよ。9勝して初めて見えるんじゃないですか。そんな甘くないですよ」と己に言い聞かせ、そして、力強くこう続けた。「僕のことより、チームの優勝でしょ!」。現役ドラフトで激変した野球人生。辿り着いたホークスで、これからも自分自身を超えていく。
(竹村岳 / Gaku Takemura)