前田悠伍を1年目から知る存在…与えてきた最大の課題
輝きを放つ21歳の原点には、ファームで愚直に重ねた「努力の日々」がありました。前田悠伍投手の“下積み時代”を誰よりも知る小笠原孝2軍投手コーチ(チーフ)が、鷹フルの単独インタビューに応じました。ホークスに入団した直後から、左腕に与え続けてきた唯一にして最大の課題。「そこが投球の生命線になると思っていたので」――。快挙の裏に隠された、知られざる“覚醒のプロセス”に迫ります。
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5月から先発ローテーションに加わった前田悠は、13試合に登板して無傷の10勝、防御率1.75をマーク。開幕10連勝は2005年の斉藤和巳投手(現2軍監督)以来と、首位を走るチームの原動力になっている。その姿には小笠原コーチも「まさかあそこまで……と思いますよね。ちょっと想像していなかった領域にまで行っています」と唸るしかない。
小笠原コーチは2023年オフに中日を退団し、翌年からホークスにコーチとして入団した。そのシーズンからドラフト1位で入団してきたのが前田悠だ。左腕は1年目に2軍で防御率1.94、2年目は同1.72と圧倒的な結果を残してきた。しかし、厚い選手層にも阻まれてなかなかチャンスを掴むことができなかった。背番号41が殻を破り、“1軍の選手”になるためには一体、何が必要だったのか。首脳陣が与え続けてきた最大の課題が、そこにはあった。
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この先で分かる3つのこと
入団直後から要求…小笠原コーチが与え続けた「生命線」
コーチ陣が止めるほど…覚醒を引き寄せた前田悠伍の貪欲さ
「ミスしてからでは遅い」前田悠伍を変えた意識と自主練習
“1軍の選手”になるための壁…小笠原コーチが即答で挙げた点
「間違いなく、右バッターのインサイドです。そこは徹底して、うるさく言ってきました。本人も取り組んでいたし、結局そこを投げきれないと中に入って打たれる。2軍で抑えたり、ファウルになったりしても『あんなんホームランボールだ』と言い続けました」
今季、左腕の被弾数は「7」。そのうち右バッターに浴びたのが6本で、直球を捉えられたのが4本だ。インコースを厳しく狙った“クロスファイア”が甘くなり、長打にされるのは1軍で活躍する今も課題だ。まさに小笠原コーチが伝え続けてきたことだった。「彼が入ってきてすぐ、試合で投げ始める前の段階から『そこが生命線になる』とは伝えていましたね。だから倉野(信次)コーチにも共有して、もう最初からずっとそれをやってきました」と続けて語った。
中日時代も10年間コーチを務めていたが、前田悠のような存在は「まずいないですね。初めてくらいじゃないですか」と言い切る。野球に対しては絶対に妥協しない。入団時から左腕が貫いているプロの姿勢だ。今では1軍に欠かせない戦力になったが、「1年目の時は、ピッチングはまだまだでしたけど、考え方が大人で吸収力がすごかった。10言えば11、12と理解ができる子。そしてそれをすぐに実行できる力を持っていた」と振り返る表情は懐かしそうだった。
2年目以降は、2軍で結果を出していたとしても「この球が何センチ高い」と具体的かつ厳しいハードルを与えてきた。ファームで課題と向き合いながら、前だけを見て突き進む左腕の姿に、小笠原コーチも「継続したのは本人です」という。この頃から、前田悠に変化が生まれ始めていた。感じ取っていたのは、一球に対する執念がより大きくなっていたことだ。
「その時(昨年の7月)くらいからですかね、より貪欲になりました。とにかく野球に対して貪欲、向上心がめちゃくちゃある。本当、思い立ったら『ちょっと投げていいですか』と。こちら側が止めるくらい。そこはすごかったです」
21歳の左腕が口にする「試合でミスしてからでは遅い」
今年2月の春季キャンプでも、前田悠は毎日のように小笠原コーチのノックを受けた。フィールディングに課題があることを自覚しての行動だったが、左腕も「下手すぎますよね。センスないんですかね」と苦笑いを浮かべていた。そのうえで力強く口にしたのは「でも、練習しないと絶対に上手くならないので」。向上心を失うことだけは絶対にしなかった。
ノッカーを務めてきた小笠原コーチも、その姿勢こそが左腕の“らしさ”だと認める。投球だけではなく、守備に意識が向き始めたことは明らかだった。
「それも、悠伍の方から『お願いします』と言うようになってきたんですよね。初めの方は僕が引っ張り出して、怒りもしたし、練習中でもポロポロしていた。だけど習慣が変わったんだと思うし、『試合でミスしてからでは遅いので』と言えるようにもなった。結局は技術だし、守備では足を動かすことを大事にしていましたね」
8月4日に21歳となったばかり。無限の可能性を秘めた背番号41に、小笠原コーチは「まだまだこれからでしょう」と優しく微笑んだ。1つずつ課題を消化し、前へ前へと突き進む。これまで携わってきた数々の指導者も、左腕のさらなる成長を心待ちにしている。
(竹村岳 / Gaku Takemura)