3か月ぶりの実戦復帰「ふわふわしていました」
プレーボールが刻一刻と近づいてきた午後5時20分、クラブハウスの扉を開けた36歳は、自らに言い聞かせるように力強く呟いた。「よしっ!」。その表情には笑みが浮かんでいた。東浜巨投手が、帰ってきた。3か月ぶりの実戦登板。マウンドに立った自分の姿は、海を越えて、沖縄の“家族”へと届いただろうか――。
16日に行われたファーム・リーグの阪神戦(タマスタ筑後)。まっさらなマウンドに立った右腕は、3イニングで3安打を許しながらも無失点に抑えた。「今日1日、ずっとふわふわしていたので。久しぶりに緊張感を味わえてよかったです」。最後の実戦登板は5月16日のオリックス戦(堺)。プロ14年目の今季、決意のシーズンを過ごすはずが右肩の不調に悩まされ、3か月もリハビリ生活を送ってきた。支えてくれた周囲に向けた感謝の思いは尽きない。
「一番は奥さんですかね。リハビリに入った時は、自分が帰っても暗かったりしたので。そういう時でも(自分を)立ててくれました。両親もそうですし、何よりもリハビリを担当してくれたトレーナーさんたちが根気強くやってくれました。今日も休みですけど、返上して見にきてくれた。そういう意味ではこの3か月、気づきじゃないですけど『感謝が足りなかったな、俺』と思うような期間でした」
1軍では通算180試合に登板して76勝。幾多の経験を積み上げてきた右腕のモチベーションの1つは、沖縄にもある。マウンドにあがるたびに、集まる“大家族”。画面越しに戦う姿を見せることで、少しでも「楽しみを与えられたら」と自らを突き動かしてきた。
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この先で分かる3つのこと
登板日に動くグループLINE…東浜巨を支える「沖縄の絆」
「これだけ苦しいのは初めて」右肘手術以上だった3か月の葛藤
若手に見せ続けた背中…東浜巨が筑後で貫いたプロの姿勢
自分の登板で集まる親戚一同「ワーワー言いながら」
「奥さんも、自分の家族も、親戚も、まだまだ投げている姿が見たいと思うんです。1軍で投げるとテレビ中継があるじゃないですか。先発なら週に1回、自分の試合を見るために実家やおばあちゃんの家にみんなが集まるんですよ。そこでご飯を食べて、お酒も飲んで試合を見て、ワーワー言いながら楽しそうにするんです。それは自分の中でずっとモチベーションです」
プロの世界で第一線に立つ。その姿を楽しみにしてくれている存在がいる。たとえ辛い時でも、右腕が前を向くには十分すぎる“希望”だった。「グループLINEで、みんなが一緒に観戦している写真が送られてくるんですよ。勝てば『おめでとう』、負けた時でも『次頑張ってよ、応援しているよ』と言ってくれますね。もっともっと応援しているから、と」。感謝の思いと、実直さこそが右腕の原動力。3か月ぶりに見せたピッチングは、きっと海の向こうにいる家族にも届いたはずだ。
復帰への道のりが長引いても、背番号16の心が折れなかったのは故郷と家族の存在があったからに他ならない。遠く離れていても、沖縄こそが自らのルーツ。リハビリという地道な日々でも、その“誇り”を見失うことはなかった。
6月23日の2軍戦、当時育成だった北斗投手がプロ初完投を挙げると、ヒーローインタビューでこう言った。「今日は『慰霊の日』なので。沖縄の人たちが味方してくれたのかなと思います」。沖縄戦の戦没者を悼む大切な日。沖縄県内で黙祷が行われた時間、東浜もタマスタ筑後の寮内で目を閉じ、故郷に思いを馳せた。マイクを握った後輩の姿が「頼もしく見えましたよ」。そう言って微笑む36歳の表情は、とても優しかった。
3か月ものリハビリ「これだけ苦しいのは初めて」
2019年に右肘手術を受けたことはあったが、シーズン中に3か月も実戦から遠ざかるのは初めての経験だった。「肘の時は区切りがつけやすい怪我だったんですけど、今回は投げながら我慢もしていたので。これだけ苦しいのは初めてだったかもしれないです」。復帰するために要した3か月は、想像以上に長くも感じた。しかし、決して“自分のためだけ”に過ごしてきたわけではない。
周囲を見渡せば、まだまだ経験の浅い若鷹ばかり。常に「見られ方」を心がける右腕は、誰よりも早くリハビリ組の集合に姿を見せ続けた。自分に対しては、誰よりも厳しい東浜。一方で、ともに暗い道のりを歩んでいる後輩たちには優しく理解を示していた。「それぞれ思うことも必ずありますから」。集合にやってくる表情を見ていれば、ある程度“察する”ことはできる。自分にできるのは「プロ」としての姿を見せることだけだった。
「復帰に対して、どう取り組めるか。それも1軍を知っているか、そうじゃないかで大きく変わると思うんです。僕は若い子よりは現役が長くて、1軍選手のリハビリも見たことがあるので。そういった中で、僕が“1軍じゃない姿”を見せるわけにはいかなかったです」
8月の戦いも折り返した。優勝へのマジックナンバーは「28」と、1軍はパ・リーグ3連覇に向かって真っすぐに突き進んでいる。「復帰はしましたけど、まだゴールじゃない。上を目指すのは当然なので。この3か月に感謝したいと思います」。支えてくれる人たちのためにも。東浜巨は必ずもう1度、1軍のマウンドに立つ。
(竹村岳 / Gaku Takemura)