「いつでも投げられる準備はしてきた」
呼吸すら忘れてしまいそうな高揚感と、初めて味わう緊張感が、19歳の胸を包み込んでいた。14日、村上泰斗投手が待望の1軍初昇格を果たした。中継ぎでの起用が想定される中、最初に身を置いたのはブルペンではなく、熱気高まるベンチ内だった。
目の前で繰り広げられる1軍の真剣勝負。テレビの向こう側で見ていた先輩たちの本気の瞳、張り上げる声、研ぎ澄まされた集中力が村上の目に深く焼きついた。「周りの選手を結構見ていたんですけど、『自分の仕事』というのが目に見えて分かりました」。プロ2年目を迎えた19歳は、ただ息を呑むばかりだったという。
プロ初登板も期待される右腕だが、試合開始からの3イニングをなぜベンチで過ごしていたのか。そこには、倉野信次投手チーフコーチ兼ヘッドコーディネーター(投手)による温かな「配慮」があった。1軍の空気を感じながら、右腕は何を見ていたのか。肌で感じ取った“プロ”とは一体何だったのか――。
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この先で分かる3つのこと
・倉野コーチが村上泰斗に授けた“異例の配慮”とその真意
・1軍ブルペンでドラ1右腕が痛感した先輩投手の完璧な準備
・昇格した村上泰斗に倉野コーチが期待を込めて告げた役割
「『最初はベンチに入って、試合を見て何かを感じ取れ。雰囲気を味わうだけでも伝わるものがあると思うし、勉強になるから』と。倉野コーチに言われてベンチに入りました」
試合前練習が終わる頃、倉野コーチからそう声をかけられたという右腕。それは1軍の考え方やスピード感、そして熱量を全身で吸収させようという親心だった。
「楽天の選手の構えや、ホークスの選手の構えとかを見ていたら、ひとつひとつに『こういう意図を持ってやっているのかな?』というのが見えました。こなしてきている数や経験も含めて、それがすごく垣間見えたので。1軍選手のすごさを改めて感じました」
ブルペンにもあった特別な緊張感
味方野手の準備の姿勢。そして、一つ一つのプレーや行動に込められた意図がひしひしと伝わってきた。その時に、1軍での第一歩が特別なものになると悟った。
この日の先発は自主トレをともにした大津亮介投手だった。今季は安定感のある投球を続けている背番号19だが、初回にいきなり4点を失った。そのことは村上にとって“怖さ”を感じさせるものでもあった。それでも、純粋な19歳の心は「早く投げたいと思っていた」という感情でいっぱいだった。先輩たちの言動を見つめれば見つめるほど、そしてドームの歓声が耳に入るたびに最高の場所で腕を振りたいという思いが湧き上がってきた。
3回が終わると、村上はブルペンへと向かった。そこも独特の緊張感が漂っていた。
「みんなが自分の決められた事を全うしていました。『こういう状況になったら、こうする』というのが、自分の中で出来上がっていたように感じました。そういうアプローチがやっぱりすごいなと思いましたし、準備の段階でいろんなことを想定してやられているので。すごく勉強になりました。2点差で負けていましたけど、『今日は落とせない』みたいな雰囲気もすごく感じました」
倉野コーチから授けられた異例の“ベンチ見学”は、1軍の怖さを知ると同時に、マウンドへの思いをいっそう熱くさせた。昇格にあたって村上に与えられた役割は「中ロング」だ。「いつでも投げられるだけの準備はめちゃくちゃしてきました」。そう語る表情にはドラフト1位のプライドがにじんでいる。背番号20が1軍のマウンドに上がる瞬間を、誰もが固唾をのんで待っている――。
(飯田航平 / Kohei Iida)