1番打者が放つ強烈な存在感
打線を牽引し続ける26歳に、先輩たちは“笑う”しかなかった。12日にみずほPayPayドームで行われたロッテ戦。初回に正木智也外野手が放った一発は、鮮やかな放物線を描いてレフトスタンドへと吸い込まれていった。球団タイ記録となる今季5本目の先頭打者本塁打。小久保裕紀監督も「相手球団もちょっと嫌がっている感じはあるので。今のところは代えるつもりはないです」と語るほど、1番・正木が与えるインパクトは大きい。
11日の同戦でも初回から安打、犠飛、本塁打に加えて2つの四球。全5打席で出塁や打点を記録するという活躍ぶりだった。「納得ですね。ホームランも打てましたし、下位打線がチャンスで回してくれて。ランナーを返せましたし、フォアボールで後ろに繋ぐこともできたので。今日みたいな日が増えればいいなとは思います」。背番号31は力強く語った。
これまでの野球人生で経験したことがなかった1番打者というポジションで、なぜ正木はこれほど軽やかにバットを振れるのか。そこには、打席の中で“無意識”に感じているチームメートへの信頼と、不調の波を劇的に終わらせた先輩からの「ある言葉」に隠された秘密があった――。今シーズンで描き始めた理想像と、「シーズンを1番打者で終えたい」と語った心中に迫る。
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この先で分かる3つのこと
・周東佑京が先頭打者弾の直後にもらした「呆れ顔の本音」
・近藤健介の打撃論を“盗み聞き”して試した「ある意識」
・不調の波を最小限に抑えた、最新機器による「特別練習」
先輩たちに寄せる信頼「無意識的に」
「ホークスの1番を打たせてもらっている自分が新鮮です。ずっと周東(佑京)さんが打ってきた中で、タイプが違う人間が打たせてもらっているので。そういう意味ではやりがいが凄くあります。一番多く打席が回ってくるし、一番チームに貢献できるチャンスが多いので。首脳陣がその打順に据えてくれているので。その期待に応えたいという思いも、すごくあります」
初回から長打も打てて出塁もできる。それが正木の考える「最高の」1番打者の姿だ。しかし、打席の中で四球を選ぼうとは全く考えていない。自分の打撃を貫けるのは、信頼する先輩たちがいるからだ。「後ろに周東さん、近藤(健介)さん、柳田(悠岐)さん、栗原(陵矢)さんがいるので。無意識的に『後ろに繋ごう』みたいな思いはあるかもしれないです。僕は初回から全力で出塁しに行きますけど、もし打てなかったりとかしても、佑京さんが打ってくれるので。そこは気楽に打てているなと思いますね」。強打者揃いの打線への信頼が、正木の集中力を生み出す要因にもなっている。
そんな正木の先頭打者本塁打を“5度”出迎えているのが周東だ。この日も呆れたような、それでいて嬉しそうな笑顔で迎えた。「僕が先頭打者ホームランを打つと、周東さんは打ちにくいらしいです(笑)。ハイタッチの時にめっちゃ笑ってるんですよ。『また打ちやがった』みたいな感じで」。正木はそう言って、人懐っこい笑みをこぼした。
近藤の打撃論を“盗み聞き”
一方で、1試合で最も多く打席が回ってくるポジション特有の難しさも肌で感じている。「調子が悪くなったら5タコとか普通にあるので。打席が5回まわってくるから、打率はすぐに落ちるし、すぐにも上がらない。その難しさはありますね」。8月に入ってからは少し調子を落とすこともあった。それでもすぐに復調を果たせた背景には、近藤の打撃論を“盗み聞き”したエピソードがあった。
「近藤さんがバッティングの話をしているのを盗み聞きして(笑)。軸足の回し方について話していたので、それを練習で実践してみたらめちゃめちゃ良くなったので、今はそれを意識してやっています。『盗み聞きしました』ってお礼を言ったら、笑っていました」
正木は悪戯っぽくそう語ったが、自身が積み上げてきたものが今を支えていることも間違いない。最新テクノロジーであるトラジェクトアークを使い、わざと追い込まれている想定の中で、ツーストライクアプローチの練習を重ねてきた。「その練習はめっちゃしていました」。不調の波を最小限に食い止める術を探求してきた。それが今季の躍動を支える土台にもなっている。
「シーズンを1番打者で終えたい」。そう口にした言葉の裏には、与えられた役割への確かな手応えと、リードオフマンとしてチームを勝利へ導き続けるという強い覚悟がある。先輩たちの温かい視線と周囲の期待を力に変え、貪欲に進化を重ねる背番号31。打線を力強く牽引するその一撃が、これからもチームを勢いづける。
(飯田航平 / Kohei Iida)