昨年7月に右肘手術…復帰を果たし充実感に満ちる今
ユニホームを真っ黒に染め、大粒の汗を拭う。宇野真仁朗内野手の表情には、どこまでも晴れやかな笑みが浮かんでいた。ようやく戻ってきた大好きなグラウンド。ヒリヒリとした空気を全身で感じる日々に、20歳の胸は躍っていた。毎夜、眠りに就く瞬間に湧き上がる充実感――。かつて吐きそうになるほど極限の緊張感を味わった背番号46が、再び走り出した“今”に迫る。
「前半はほとんどリハビリだったので。自分自身も5月くらいに復帰できるかなと思っていたところで、思うようにはいかなかった。目標は達成できなかったですけど、そういう日々もいい時間にできたと思いますし、リハビリの中でも濃い時間を過ごせたかなと思います」
8月7日に行われた熊本・火の国サラマンダーズとの3軍戦に「2番・遊撃」で出場し、2安打1打点で勝利に貢献した。昨年7月には右肘のトミー・ジョン手術を受けるなど、長いリハビリ生活を経て、ようやくグラウンドに帰ってきた。「バッティングも守備も、まだまだ自分の感覚でできているところは少ないですね。試合になると全然違います」。早実高時代は通算64本塁打。秘めるポテンシャルを発揮するため、全力で白球を追いかけている。
3軍戦を終えると、大越基監督からは「疲れているな!」と声をかけられた。8月4、5日の大分遠征も含めて、遊撃手として泥臭く実戦に立ち続ける日々。失われた時間を取り戻すかのように、全力プレーを怠ることはない。「やっと帰ってきた」――。宇野が静かに喜びを噛み締めるのは、毎日眠りに就く直前だという。長かった“暗闇”を抜けて、20歳の胸を満たす感情とは――。
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吐きそうになる緊張感…宇野が追い求める「本気の場」
早実高時代の3年夏決勝「吐きそうになるほど」
「寝る時にやっぱり野球のことを考えるじゃないですか。やっと本気になれるというか。リハビリだと、練習でバッティングが悪くても(状態が)わからなかったので。試合でやるから課題が出てくるわけですし、寝る時も『あのプレーはああだったな』と。グラウンドで頑張ってプレーするから自然とそう思うので。そういう意味ではこういう感覚は久しぶりだと思います」
リハビリの期間中、ゲームに出場することすらできない状態では、イメージも膨らまない。「『明日は肘、大丈夫かな』とか。自分から意図的に考えるようにしないと、野球のことは考えられなかったです」。試合にしかないヒリヒリとした緊張感を追い求めてきた。大粒の汗を拭いながら「考えるのは楽しいです」と語る20歳の表情は、充実感に満ちている。
自らの“青春”が、ぎゅっと詰まった瞬間――。心に刻まれている試合がある。早実高で主将を務めていた宇野は、3年夏にすべてをかけて甲子園出場を目指していた。2024年7月28日、西東京大会の決勝。日大三高と10-9という激しい打ち合いの末、初めて聖地への切符を掴み取った。あまりの緊張で、当日の朝食は味すらも覚えていない。
「その試合が一番覚えていますね。前の夜、寝る時も展開を100通りくらい考えました。『うちのエースがこういう立ち上がりだったらどうしよう』『何点取られたらどうしよう』とか。寝られはしたんですけど、目を覚ましても朝から吐きそうで。ご飯も食べたんですけど、何も喉を通らなかったです」
兄も早実高出身で、自身も「WASEDA」のユニホームに憧れた。しかし、2年の秋まではすべて都大会で敗退。聖地への道のりが遠かったからこそ、初めて迎えた“決勝戦”に心から緊張した。「『甲子園に行くんだ』と言っても、そのステージにすら行けなかったので。現実味がなかったんですよね。それが『明日勝ったら甲子園なんだ』と。『やばいやばい』と思っていましたね」。宇野の野球人生にとって、忘れられない一戦だ。
全力でプレーするために…リハビリから繰り返した準備と確認
勝つか、負けるかの大一番。吐きそうになるほどの緊張感を味わうには、まずは怪我することなくグラウンドに立っていなければならない。リハビリ期間でそう痛感したからこそ、全力でプレーできる今は充実感に満ちている。「スライディングやダイビングキャッチもしていますけど、リハビリの時から確認も繰り返して、準備をしっかりとして、復帰しているので。もう気にせずにできています」。万全と言っていい状態で、一戦一戦を大切にしながら経験を積んでいるところだ。
「今の実力というか、本気でやらないと“野球感”も戻ってこない。だからこそ、3軍はなんでもチャレンジができる場所だと思うので。思う存分にやらせてもらっています。純粋に野球が好きですから。いずれは1軍に行って、勝ちにこだわってやらないといけないので」
今はファームで、ひたすら鍛錬を積む。重圧と緊張感を背負いながら、いつか1軍のグラウンドに立つために。
(竹村岳 / Gaku Takemura)