6回に自身の失策が引き金となり3失点
まさに執念が乗り移った一撃だった。試練を乗り越えて、プロ野球選手は強くなっていく。野村勇内野手の決勝2ランで制した5日の日本ハム戦(みずほPayPayドーム)。殊勲のアーチを放った背番号99がベンチでもみくちゃにされる中、誰よりも力強くガッツポーズしていたのが川瀬晃内野手だった。
3点リードで迎えた6回2死一、二塁、郡司が放った打球は三塁を守る野村のもとに飛んできた。しっかりとキャッチしたものの、一塁への送球が逸れてピンチは拡大。痛恨の失策が要因で同点に追いつかれ、大津亮介投手の10勝目も消えた。8回2死一塁で試合を決める5号2ランをバックスクリーン左に運んでも、その事実は消えない。ダイヤモンドを一周する29歳に笑顔はなかったが、柳田悠岐外野手に肩を揺さぶられてようやく苦笑いを浮かべていた。
決勝弾が生まれる直前、2死走者なしから四球を選んだのが川瀬だった。「下位打線ですし、なんとか次につなげようという気持ちでした」。失策の重みと、それを取り返す一撃の価値を誰よりも知る男だからこそ、川瀬は力強く拳を握りしめた。ミスに苦しむ背番号99に重なったのは、かつて絶望の淵から救われた自分自身の姿。プロとして2人が貫く圧倒的な準備、そしてお立ち台に立たなかった男の意地――。ナインの心をつなぐ、もう1つのドラマに迫った。
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この先で分かる3つのこと
「気持ちはすごくわかる」川瀬晃が野村勇の劇的弾に歓喜した訳
痛恨エラーからの救還…川瀬晃の心に刻まれた柳田悠岐の伝説の一言
勝ち越し弾も笑顔はなし…野村勇が試合後に明かした葛藤と本音
柳田悠岐の“伝説の一打”「お前は悪くない、千賀が悪いんだ」
「僕も昔、大事なところでエラーをしたことがあるので。“エラーした後の気持ち”というのはすごくわかりますし、勇さんのホームランは自分が打ったかのように嬉しかったです」
背番号0にとって絶対に忘れられない一戦は、2020年8月11日のオリックス戦(みずほPayPayドーム)だ。先発は千賀滉大投手(現メッツ)だったが、5回に川瀬の2失策がきっかけとなり、一挙6点を失った。5点リードから一転して追いかける展開に。そして6回、逆転3ランを放ったのが柳田だった。「お前は悪くない、千賀が悪いんだ」。ヒーローインタビューでそう語った柳田の姿は、ホークスファンの記憶にも刻まれているだろう。
川瀬は当時、プロ5年目の22歳。この一発に心は救われた。エラーをして抱いた、自らに対する不甲斐なさ。そしてミスを取り返すためには、どれほどの強い気持ちが必要なのか――。それを知っているからこそ、野村のアーチに誰よりも熱く拳を握った。逞しくなった背番号0は「僕も昔の失敗は今でも覚えていますし、先輩が助けてくれたことも絶対に忘れてはいけない。あの日のことも、野球人生の糧になっているので。それはこれからも同じだと思いますね」と続けて語った。
小久保裕紀監督が「絶対に欠かせない」と言い切るほど、川瀬への信頼は厚い。それはまぎれもなく、絶対に妥協を許さない“準備力”の賜物だ。そんな川瀬の目には、野村の準備はどのように映っているのか。
「すごいですよ。朝も早いですし、やることがしっかりと整っている。僕は決まっていないんですけど、勇さんはウエートしてトラジェクトも打って。ルーティンがしっかりとあるので」
午後6時プレーボールの本拠地開催なら、野村の球場入りは午前11時前後。どんな時もウエートトレーニングを継続し、自分なりのルーティンで結果を出そうとしている姿をチームメートも見ている。1歳年下の川瀬も「人それぞれ、いろんな準備がありますよね」とリスペクトの思いを込めた。
試合後も笑顔なし…野村勇「大津と津森に申し訳ない」
野村は7月9日に1軍登録を抹消された。その際に、首脳陣から与えられた課題は「スローイングの改善」だった。きっかけとなったのが、7日のオリックス戦(京セラドーム)での悪送球。失策が記録された時に、野村本人も2軍降格を察していた。最短の10日間で1軍復帰を果たしたが、課題と向き合う日々は今も続いている。
試合を決める一撃を放ったが、ヒーローインタビューにも出てこなかった。囲み取材でも、笑顔は一切ない。「大津と津森(宥紀)に申し訳ないです」。3打数無安打で迎えた4打席目。下を向かずに、最後までファイティングポーズを取っていたからこそ生まれた一発だ。「バッティングの感じは悪くなかったので、気持ち的にも『絶対に打ってやろう』と思っていました」。優勝へのマジックナンバー「37」が点灯。最後の最後に結果で応え、チームを勝利に導いたのは野村の意地だった。
7月24日の西武戦(ベルーナドーム)以来、6試合ぶりのスタメン起用だった。結果を出せなければ2軍降格の可能性もあると、自らに言い聞かせてグラウンドに飛び出していた。ベンチでは先輩たちにもみくちゃにされた。「ギーさんが『よかったな』と。すごく励ましてくれました」。ユニホームを着ていれば、取り返すチャンスは必ずある。常勝を義務付けられたホークスで、重圧を分かち合う。だからこそ、ホークスナインの絆は固い。
(竹村岳 / Gaku Takemura)