データが示した「課題と言えるところがないくらいの成績」
手渡された6枚の紙には、データが裏づけた確かな成長と期待が込められていた。7月19日に1軍登録を抹消された廣瀬隆太内野手は、2軍でひたむきにバットを振り続けている。「状態はいいと思います」と語る背番号33は、降格後も19打数7安打と好調を維持。今季のファームでは打率.306をマークしている。
降格時に首脳陣から「とにかくバッティングの状態を上げてくれ」と告げられたという廣瀬。これまでの昇格時は主力選手の負傷に伴うものが多く、ある程度の打席数を与えられていたが、今季は限られたチャンスで結果を求められる厳しい立場にある。「結果が出ないと使ってもらえない」。廣瀬自身、そのシビアな環境ならではの難しさを痛感していた。
そんな中、廣瀬は2軍の舞台で結果を残し続けている。自身が感じている確かなレベルアップは、感覚だけのものではなく、データにも如実に表れていた。25歳が手渡されたのは、現在の進化とこれからの課題を明確に裏付ける資料。そこには、過去の自分との“違い”が記されていた。そのデータの正体とは何なのか。そして、なぜ廣瀬だけに渡されたのか――。1軍の壁を打ち破るために見据える「次なる課題」が明らかになった。
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この先で分かる3つのこと
・スタッフが明かす廣瀬の過去の壁を破るための真の狙い
・「それってほとんどいない」データが示す廣瀬の進化
・廣瀬が吐露した、1軍の限られたチャンスでの深い葛藤
数字が証明する「進化」とコーディネーターの思い
「1軍から落ちてきた時に渡しました。2軍で結果を出す(ため)というよりかは、課題の確認です。これまで、あいつは1回落ちてきたらずっと上がれずにいた。もう1回上がっていかないといけない。また1軍に戻ってもらいたいなという思いで渡しました」
こう語るのは、荒金久雄コーディネーター(野手統括)だ。廣瀬に手渡した6枚の資料は、1軍と2軍で分けられた対右・左投手のデータや、コンタクト率、三振率などが細かく記されたものだった。この資料は選手全員に定期的に渡すものではなく、スタッフが必要だと判断したタイミングで個別に送られるという。
「根拠を持って『こういう結果が出ていますよ』と伝えるためです。『左投手を打てていないけど、お前が出るなら左投手の時だろ? じゃあどういう練習をするの?』と。ここ(2軍)にいると、試合の流れの中で1日が終わってしまって、本来の目的が少し霞むというか。試合で打ったから良いとか、打てなかったから駄目ということじゃなくて、『その思考のままでどうやって1軍で打っていくのか?』と。本人にデータを見せて、『自分で考えなさい』というアプローチをしました。僕らとしては、もっとできると思っています。100%の力を出し切っての今なのかと言ったら、そうじゃないと思っているので」
三振減少と長打率アップ…「2軍では及第点」
球団が誇るデータサイエンスグループが算出した資料の中には、克服すべきウイークポイントだけではなく、廣瀬の成長も示されていた。
「2軍での三振の割合がすごく減っています。コンタクト能力が向上したことが大きな変化として表れています」
そう明かしたのは、齋藤周アナリストだ。現在、廣瀬がファームでマークしている三振率は12.3%と極めて少ない数値。慶大時代はリーグ戦で通算20本塁打を記録するなど生粋のホームランバッターだったが、プロの壁にぶつかり、1年目はコツコツとヒットを積み重ねるスタイルになっていた。その代償として長打を放つシーンは多くはなかった。三振は減るが長打が出ないという傾向は、入団時からのデータでも見てとれたという。
しかし、今季は明らかに違う。三振数を低い水準に抑えながら、長打率.476を記録。コンタクト率と長打力を高いレベルで両立できるようになっている。
さらに齋藤アナリストの言葉は熱を帯びる。「フォアボールも増えているんです。廣瀬の場合、三振よりも四球の方が多い。それは中々ないこと。ほとんどいないんです」。今季のファーム・リーグでは19三振を喫する一方で、24四球を選んでいる。2軍で100打席以上を消化している選手の中で、三振よりも四球が多いのは廣瀬だけ。手渡された「資料」には、確かな成長の証が記されていた。
これらのデータは、首脳陣が1軍昇格や課題設定を検討するための重要な材料となる。齋藤アナリストが「正直、ファームではあまり課題と言えるところがないくらい、良い成績になっている」と太鼓判を押せば、荒金コーディネーターも「2軍では及第点まで来ています。確実に成長しているところはあるので、そこは自信を持ってほしい」と背中を押した。
限られたチャンスでの葛藤
当然、目指す場所は1軍の舞台だ。荒金コーディネーターは「『あなたは1軍でやらなきゃいけないんだよ』というところを再確認してほしい。今年はもう1回上がってほしい」と期待を込める。今季、1軍では20試合に出場。後半戦の戦いが始まり、あと48試合が残されているが、現時点ではプロ3年目で最少の出場数にとどまっている。
長期的な視点で見ても、ステップアップを遂げ、データと廣瀬の感覚は一致している。そして、突きつけられた課題に対しても自覚はあった。25歳は言葉を探すように、もどかしい胸の内を吐露した。
「心の持ち方が難しいんです。打席が少ないからこそ、初球からどんどん振ってタイミングを合わせていかないといけない。そしたらやっぱり、ボール球に手を出したりとか……。そこが難しいんです」
1軍は結果が全てという世界だ。ファームではなかなかシミュレーションしきれない“1打席の重み”。それが現在の廣瀬にとって最大の壁となっている。
齋藤アナリストも、その壁の正体を冷静に分析している。「1軍に行くと三振が増えてしまう。1軍レベルのスピード帯や、変化球の対応には課題があるのかなと思っています」。ファームで成績を残しても、一流投手のスピードや、大舞台のプレッシャーにどうアジャストしていくかが今後のポイントとなる。
それでも、自分自身が残している数値はプラス材料だ。「去年と比べても2軍のバッティングの指標とかも全部上がっていて、その成長は感じているので。前向きに取り組んでいきたいです」と語る廣瀬。次に1軍に呼ばれる時は、山川穂高内野手や中村晃内野手らとの争いにもなるはずだ。1軍で結果を残すために必要なことを見直し、再び作り上げる。「あとは1軍を待つだけです」と最後に話した齋藤アナリスト。25歳にかかる期待は、やはり大きい。
(飯田航平 / Kohei Iida)