異国の地で戦う右腕…弱音を吐き出せる存在は
周囲の言葉に背中を押されて、堂々とマウンドを守ってみせた。“孤独”との闘いは終わらない。最後まで隙を作ることなく、カーター・スチュワート・ジュニア投手は役割を全うした。
22日に行われたオリックス戦(みずほPayPayドーム)のことだ。打線が26安打22得点と大爆発。大量援護に守られながら、今季最長の7回を投げ切り、2失点で6勝目を挙げた。「ああいう展開になって、みんなが点を取ってくれた。自分にできることは相手に流れを渡さないことだけでした」。昨シーズンは左脇腹を痛めて1軍登板なし。再起を期す2026年、少しずつ状態を上げ、今季最多の112球を投げ切ったことも収穫だった。
“崖っぷち”であることは、自認していた。前回登板は15日の日本ハム戦(エスコンフィールド)。2回1/3を投げ、6安打4失点で4敗目を喫した。試合後には倉野信次投手チーフコーチ兼ヘッドコーディネーター(投手)から「今日の内容だとしんどいと言わざるを得ない」と苦言を呈され、右腕もうなだれた表情で球場を後にしていた。
来日8年目とはいえ、スチュワートも異国の地で戦う外国人選手。言語や食事、さまざまな面で“壁”がある。日本ハム戦のような悔しさを味わった時、辛さや弱音を吐き出せる存在はいるのか。支えてくれる周囲の人は、どんな言葉で背中を押してくれるのか。右腕は笑顔で、感謝の思いを口にした。
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この先で分かる3つのこと
KO後の右腕に倉野コーチが掛けた激熱メッセージ
激変した右腕に倉野コーチがあえて声をかけなかった理由
異国で戦う右腕に通訳が「絶対に言わない」言葉
倉野コーチの叱咤激励「お前の姿じゃない」
「人と話をすることですね。通訳のタカさん(山田雄大チーフ)や、奥さん、エージェントにはメンタルトレーナーのような方もいるので。悔しかったら、まずは吐き出す。そこからさらにポジティブなこともあるので、自分の気持ちを切り替えて、次に向けてやっていくのが、僕がやっている一番の方法です」
KOされた日本ハム戦の後、また前を向けるように多くの人が励ましの言葉をくれた。「とにかく自分が少しでも良くなるように、いつもアドバイスをもらっている。それはシーズンが始まった時から変わっていないです」。中でも印象に残ったのは、倉野コーチの言葉だ。「あれは、お前の姿じゃない」――。右腕が持つ潜在能力なら、もっと高いパフォーマンスを出せる。厳しくも聞こえる言葉は、期待の裏返しでもあった。
日本の生活にも慣れ、チームメートと日本語で会話もできるようになってきた。「もう8年もいるので、福岡はとても好きですし、住みやすい。そういう面での苦労は全くないですね」。そう言い切れるのも、スチュワートが努力したから。ただ、「だけど、やっぱり“ホーム”ではない。そこに大きな違いはありますし、何年経っても変わらないと思います」とも……。野球で成功するために、家族のもとを離れ、海を渡って日本に来ている。その“孤独感”が消えることはない。
4月21日の西武戦(ベルーナドーム)では、1回6失点という屈辱も経験した。厳しい現在地を突きつけられるような結果になったが、スチュワートを“右腕”として支える山田通訳は「僕は絶対にネガティブなことは言わないですよ」と話していた。それも、暗くなりやすい背番号2の性格を熟知しているからこそ。通訳としてホークスに入団し、今季が20年目。外国人選手の苦労を間近で見てきたからこそ、言葉に熱も帯びる。
「これは異国の地に行くどの人にも言えますけど、例えば日本に来るようになって、それまでの人生で食べたこともないうどんを『食べなさい』と言われても、簡単なことじゃないと思うんです。『文化の壁』というのはいろんな意味がありますけど、どんな思いを持ってプレーしているのか。選手の思いが少しでも伝わればなと思います」
倉野コーチも感じ取った気合「あえて声をかけなかった」
大量援護の中でも隙を見せずに、7回を投げ切ったオリックス戦。開幕から二人三脚を続けてきた倉野コーチも、高い評価を与えた。「危機感の表れだと思うんですけど、すごく気合が入っていましたね。ミーティングの時から、その後のブルペンでも表情が全然違ったし“勝負する顔”になっていました」。球速にこだわり、気を抜くような姿はもうどこにもない。「ああいう展開になれば、いつもなら声をかけるんですけど、昨日はあえてかけなかったです。カーターが状況をどう捉えて、考えて投げるのか見たかったので」。
2024年は9勝を挙げて日本シリーズでの先発も経験したが、今季はここまで12試合に登板して6勝4敗、防御率5.27。悔しさを受け止めながら、乗り越えようと準備を続けている。口にしたのは、スチュワートなりに前を向く強い気持ちだった。
「今の自分を見ると『2023年、2024年は良かったじゃないか』という話も必ず出てくると思うんですけど、過去のことは変えられない。自分自身としては、今、結果を出せるように最大限の努力と準備をしている。オリックス戦ではその前よりはいい投球ができましたけど、もう次に向けた調整は始まっているので。どうなろうと、自分のベストを尽くす。それしかないという気持ちで常にやっています」
原動力は、周囲への感謝。たくさんの人に支えられ、スチュワートがまた1軍のマウンドに立つ。
(竹村岳 / Gaku Takemura)