上茶谷大河を変えた“10失点の屈辱” 2軍降格で5時間の会話…先輩の愛で知った「捕手の気持ち」

  • 記者:竹村岳
    2026.07.25
  • 1軍
6勝目を挙げた上茶谷大河【写真:井上学】
6勝目を挙げた上茶谷大河【写真:井上学】

6回3失点で6勝目も「反省の方が多かったです」

 1518日前、マウンドに立っていたのは「独りよがり」な自分だった。投げたい球ばかりを優先し、悪夢の10失点KO、そして2軍降格――。失意の底にいた右腕を救ったのは、大先輩の愛情と、初めて知った「捕手の気持ち」だった。7-3で3連勝を飾った24日の西武戦(ベルーナドーム)、6勝目を挙げた上茶谷大河投手の胸には深い感謝と反省が刻み込まれていた。

 今月16日の日本ハム戦(エスコンフィールド)、移籍2年目で初先発を託されて白星を手にした。中7日で訪れた2度目のチャンス。4回に栗原陵矢内野手の3ランで逆転したが、その直後、林安可に同点2ランを浴びた。「前回と同じで、取ってもらった後に追いつかれてしまったので。反省の方が多かったです」。6回に柳田悠岐外野手が適時打を放ち、これが決勝点に。上茶谷も無四球で3安打と、テンポよく投げ込んで試合を作った。

 8年間のキャリアで、1度だけベルーナドームで先発登板したことがある。DeNA時代の2022年5月28日で、結果は2回2/3を投げて9安打を浴びた。自己ワーストの10失点。2本のアーチを許し、すぐさま2軍降格となった。横須賀市内のファーム施設から始まった試練の道のり。真っ先に声をかけてくれた先輩から、大きな愛情を受け取った。右腕を変えたのは、5時間を超える“サシ”のミーティングだ。「ちょっと話そうぜ」――。

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この先で分かる3つのこと

5時間の対話で…偉大な先輩から教わった「捕手の本音」
2軍にいた先輩が上茶谷大河のために見せた「深い愛」
好投の裏側で…バッテリーを組んだ渡邉陸に漏らした後悔

伊藤光から呼び出され5時間のミーティング

「10失点したあの西武戦、僕が結構、首を振って打たれたんですよね。キャッチャーは戸柱(恭孝)さんだったんですけど、自分が投げたい球を投げて打たれて、めっちゃ謝りました。トバさんも優しくて『いいよ、いいよ』とは言ってくれたんですけど、そこで(伊藤)光さんが声をかけてくれたんです。『ちょっと話そうぜ』と」

 現在は楽天に在籍している7歳年上の伊藤光捕手に呼び出され、球場内のミーティングルームへ。本音をぶつけ合った会話は、気づけば5時間を超えていた。「トバさんにはもちろんなんですけど、光さんの話を聞いてもっと申し訳ないなという思いになりました」。諭すような空気で優しく教えてもらったのが、“捕手の気持ち”だった。

「『キャッチャーにもこんな考えがあってサインを出している。その意図もあるから、ピッチャーにも考えてほしい。トバもすごく見てくれているから、できればピッチャーにはそういう(独りよがりな)考えを持ってほしくない』と。そこからもいろんな話をしながら『キャッチャーもめっちゃ考えて、なんとかカミチャに勝ちがつくようにやっている。そこはカミチャも理解して寄り添ってくれ』と言われましたね」

 胸を打たれたのは、伊藤の言葉だけではなく、献身的な姿勢だった。「西武戦の時、光さんは1軍のベンチから見ていたわけじゃないですよ? 自分はファームにいるのに、僕の投球を見てくれていたんです」。明るいキャラクターに隠れがちだが、誰よりも負けず嫌い。熱い気持ちは確かに大切だが、10失点という屈辱を機に、大先輩の愛情は大切なことを教えてくれた。「変わらなあかんなって思ったんです」――。

渡邉陸とハイタッチする上茶谷大河【写真:井上学】
渡邉陸とハイタッチする上茶谷大河【写真:井上学】

上茶谷大河が口にした本心…渡邉陸に「申し訳ない」

 4年の月日が経ち、ホークスのユニホームを着て迎えたベルーナドームでの試合だった。重要な場面で被弾したことは反省点だった。「(バッテリーを組んだ渡邉)陸と話をしていた中で、陸が思う注意するポイント、抑えるポイントがあった。それをお互いに理解したうえでネビンや林に打たれたのは後悔が残ります。しっかりと話していた中で、だったので。申し訳ないです」。

 打線の援護にも守られ、チームが勝ったからこそ前向きに反省ができる。渡邉陸に「申し訳ない」と語ったのは、捕手の気持ちを知る右腕の“本心”だった。「前の日本ハム戦も野手の皆さんが点を取って、めちゃくちゃいいプレーで守ってくれた。本当に皆さんが素晴らしいからですよ。次は自分の力で抑えたいと毎回思うんですけど、いつも助けられるので。進歩しないですね」。自虐的に笑ったが、独りよがりだった姿はもうどこにもない。通算26勝目、ベルーナドームではこれが初勝利だ。

 2022年5月28日から、1518日。欠かせない戦力として、首位を走るホークスに大きく貢献している。「ここの球場と言えば、その記憶(4年前の10失点)なので。この試合で忘れることはできないですけど、少しずついい方向に変えていけたらいいですね」。太陽のようにチームメートを照らしながら、謙虚に足元を見つめる。だからきっと仲間たちは、上茶谷大河を助けたくなる。

(竹村岳 / Gaku Takemura)