野村勇、初アーチの裏側 “最後の打者”になった1か月前…姿を見せた午前0時「なんか見つからへんかな」

  • 記者:竹村岳
    2026.06.10
  • 1軍
ヒーローインタビューに応じる野村勇【写真:栗木一考】
ヒーローインタビューに応じる野村勇【写真:栗木一考】

9日の阪神戦で2打席連発アーチ「後手に回らないように」

 およそ1か月前の出来事だった。静まり返ったみずほPayPayドーム。野村勇内野手が帰路に就いたのは午後11時49分だった。試合終了後から、実に3時間6分が経過していた。時は過ぎ、開幕してから74日目に生まれた待望の初アーチ。その裏側には、背番号99が貫いた「圧倒的な努力」があった。

 本拠地で行われた9日の阪神戦。「7番・二塁」で1か月ぶりのスタメン起用となった背番号99は、快音を響かせた。2回1死で才木の151キロ直球を左中間に叩き込むと、4回1死でも椎葉のスライダーを捉え、驚愕の2打席連続アーチ。「スタメンも久しぶりだったので、とにかく後手には回らないように。自分らしく、ポイントを前にして打てたと思います」。チームとして今季最多の6発、10得点の快勝を呼び込む働きぶりだった。

 疲れ切った表情で声を絞り出したのは、5月13日の出来事だった。本拠地で行われた西武戦に1点差で惜敗。相手先発の高橋光成に8回まで1得点に抑え込まれていた。1点を追う9回に2死二、三塁という一打サヨナラのチャンスを作ったが、最後は野村が空振り三振。低めのフォークにバットは空を斬ったが、振り逃げの可能性を諦めずに一塁まで疾走していた。

 試合が終わったのは午後8時43分だった。選手、スタッフが1人ずつ本拠地を後にしていく。野村が姿を見せたのは、日付も回りそうな時間帯だった。「僕を待っていたんですか? すみません……」。3時間以上も、一体何をしていたのか。29歳が見せた行動に、悔しさと執念があふれ出ていた。

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この先で分かる3つのこと

深夜までバットを振り続けた野村勇の執念
首脳陣の采配から受け取った期待と覚悟
長谷川勇也コーチと打撃改善…暗闇を抜けた努力

代打を出さなかった首脳陣の采配「今までと変わってきている」

「休み前だったので、ちょっと多めに打とうと思っていました。トラジェクトアークも打ちましたし、普通にマシンも打ったりとか。あの場面でもしヒットを打っていたとしても、(試合後に)練習するのは決めていました。『なんか見つからへんかな』と」

 翌14日、チームは休日で仙台に移動するスケジュールだった。時間的に余裕もあっただけに、打ち込むと決めていた。当時の打率は1割台中盤だったものの、代打を出さなかった首脳陣の采配。身をもって感じた期待が、野村を力強く突き動かした。

「正直、代わるかなとも思いました。今までだったら代打を出されていたと思うし、『あ、出さへんのや』と。そこは今までとは変わってきているんかなと思いましたし、僕にチャンスがあると(首脳陣が)感じてくれているんやなと。ポジティブにはいけたけど、打てなかったのは悔しいですね」

“最後の打者”になった10日後、5月23日の日本ハム戦では清水大の148キロ直球を左前に運んだ。約2週間ぶりに響かせた快音だったが、「三振するよりは、よかったかなと思います。僕は基本真っすぐしか待っていないし、真っすぐしか当たらないので」。そう自虐的に笑ったが、準備を怠ることは絶対になかった。

1号ソロを放った野村勇【写真:栗木一考】
1号ソロを放った野村勇【写真:栗木一考】

長谷川勇也打撃コーチと取り組んだポイントの改善

 才木の直球を仕留めた今季初アーチ。これまで得意としていた高めのストレートを、ようやく捉えることができた。野村なりに大切にするポイントが、ようやく形になりつつある。

「前までは真っすぐが仕留めきれなくて、おかしくなっていた。僕は真っすぐが合わないと、変化球にも合わなくなるので。なかなかタイミングが難しくて、前で打ちたいけど打てない状態が続いていました。DeNA戦くらいから良くなってきて、ハセさん(長谷川勇也打撃コーチ兼スキルコーチ)と『もっと球の判断を早くしていこう』と。振るか振らないかを決めるのが遅れていたので。そこを改善できるように取り組んで、今日はいいポイントで打てました」

 ナイターの翌日がデーゲームであっても、アーリーワークを続けてきた。“最後の打者”になった時も、日付が変わる前までバットを振った。努力を継続したからこそ生まれた初アーチだ。「だいぶ苦しかったですけど、打てなくてもやるしかないので。何かしら、きっかけが掴めたらと思っていました。今日は2本出て、本当によかったです」。胸を撫で下ろしたような表情が印象的だった。自身通算27本目、苦難を乗り越えたことを証明する、努力のホームランだ。

 公式戦で言えば、昨秋の日本シリーズ以来の本塁打だった。「勇コール」を一身に浴びた29歳は「打った時は『あ、こんな感じやったな』と。プロである以上、キツい時もやるしかないんかなと思うので。また“勇コール”してもらえるように頑張ります」と前を見据えた。脚光を浴びたこの日まで、野村の準備に一切の“隙”はなかった。

(竹村岳 / Gaku Takemura)