今季初対戦だった金丸の初球を捉えた先制2ラン
快音を残した打球は右中間スタンドへと突き刺さった。4日の中日戦(バンテリンドーム)。初回に相手の失策も絡んで2死三塁のチャンスを掴むと、栗原陵矢内野手が値千金の一打を叩き込んだ。金丸の初球、高めに抜けてきたフォークを完璧に捉えた先制の17号2ラン――。栗原のバットが試合の主導権を一気に引き寄せた。
「うまく反応できたと思います」
豪快な一発は初球のフォークを捉えたものだった。昨季の交流戦では一度対戦があるものの、今季は初対戦。普段対戦しているパ・リーグの投手とは違い、どんなボールを投げるのか、情報は圧倒的に少ない。この日初めて見たボールを捉えたのだから、恐れ入る。
試合開始直後の先制弾が生まれた背景には、数分前に交わされたやり取りがあった。
栗原がネクストバッターズサークルでバットを握っていたとき、歩み寄っていく人物がいた。直前の無死一塁でバントを成功させた庄子雄大内野手だった。身振り手振りを交えながら、2人は短い言葉を交わす。そして、その直後に飛び出した本塁打。2人は一体、何を言葉にしていたのか――。
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この先で分かる3つのこと
・本塁打の直前、栗原が庄子から得ていた生の情報
・前日の逆転打にも繋がったチーム内に息づく“伝統”
・リーグ独走も『毎日本当に必死』と語る栗原の矜持
「(金丸とは今季の)対戦が初めてだから、分からないので。軌道とスピード感と、っていう感じですかね。打席に立ってみないと分からないところはありますけど、ある程度聞いておくことは聞いておきたいので」
ほぼ対戦機会のない投手はデータこそあっても、実際のボールの質や感覚は打席に立った者にしか分からない。だからこそ、直前に金丸と対戦したばかりの庄子の”生の感覚”は、栗原にとって何よりも貴重な手がかりになった。
前日3日にも一時逆転となる一打を放った正木に今宮が伝えるシーンも
実際には、庄子からの伝言が“決め手”となったわけではない。バントを決めた庄子が見たのは真っすぐ2球。一方で、栗原が捉えたのはフォークのすっぽ抜けだった。ただ、こうした小さな積み重ねが打者の頭を整理させ、スムーズに打席に入ることを可能にする。
実は、こうした光景はホークスにとって珍しいものではない。ネクストバッターズサークルで、対戦した投手の球筋やイメージを後続の打者へ伝えるシーンは度々見られる。チーム内に根付いた、いわば“伝統”のようなものでもある。
とりわけ対戦経験の少ない投手が増える交流戦では、その重要性は増す。前日3日の試合で6回に逆転の一打を放った正木智也外野手も、その直前に代打で打席に立った今宮健太内野手から左腕・齋藤の特徴を聞いていた。打席に立った者だけが得られる情報を、次の打者へ――。小さな積み重ねが、得点という大きな結果を手繰り寄せる。
2日の同戦でも2本の適時打を放って3打点を挙げた栗原。5月30日の広島戦(みずほPayPayドーム)から数えて、これで5試合連続打点だ。今季47打点となり、2位の近藤健介外野手に「12」の大差をつけて、リーグトップを独走している。
とはいえ、栗原に“驕り”はない。
「いやいや、もう全然。毎日本当に必死にやっているというか、1本出すことに集中してやっています。それの積み重ねなのかなと。昨日打ったから、今日打ったからといって、明日どうなるか分からない世界なので。だからこそ、続けられることをコツコツとやりたい。ウエートに関しても、自分の体のメンテナンスに関しても、100%できることなので。これからも続けてやりたい」
日々のトレーニングも欠かすことなく、自分がその日できる最善の準備をこなす。その積み重ねこそが、今の好調ぶりにつながっている。
1本のヒット、1本の本塁打、1つの打点を、勝利のために積み上げていく。栗原陵矢の打棒がチームを牽引する裏側には、仲間と交わすささやかな”耳打ち”と、貫くプロの矜持がある。
(福谷佑介 / Yusuke Fukutani)