嶺井博希の限られるチャンス 首脳陣が感服した“一言”…一球に宿る謙虚さ「自分でいいんですか」

  • 記者:竹村岳
    2026.05.27
  • 2軍
ベンチで出番を待つ嶺井博希【写真:竹村岳】
ベンチで出番を待つ嶺井博希【写真:竹村岳】

9回に代打で登場…平凡な内野ゴロにも全力疾走

 限られたチャンスに、自らの力を全て込める。嶺井博希捕手の“たった一球”には、らしさがたっぷりと詰まっていた。首脳陣に語った感謝の言葉。「自分でいいんですか」――。ファーム調整が続く中でも、変わることのない謙虚な姿勢に深く迫った。一塁を駆け抜ける姿が想起させたのは、3月の“ある出来事”だ。

 26日に行われたファーム・リーグの日本ハム戦(タマスタ筑後)。2点ビハインドの6回に4得点を挙げて逆転したものの、今度は8回に4点を奪われた。2点を追う9回無死、嶺井が代打として打席へ。初球に手を出して遊撃へのゴロとなったが、34歳のベテランは全力疾走。敵失を誘って出塁してみせた。「ホークスがそういうチームなので。ちゃんとやらないといけないです」。当然といった口調で振り返る。後続は倒れたものの、反撃のチャンスを作ったのは間違いない。

 2月の春季キャンプでは、S組の独自調整からB組に合流した。開幕以降も2軍暮らしが続いており、ここまでファーム・リーグでは20試合に出場して打率.146と低迷している。「調子が悪すぎるので、課題としてやっていることをどう実戦で出せるか、ですね。なんとかしないといけないです」。苦しくても、自分自身から決して目を逸らすことはない34歳。今から2か月前、斉藤和巳2軍監督、そして高谷裕亮バッテリーコーチを驚かせた“感謝の言葉”があった――。

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この先で分かる3つのこと

嶺井博希が凡打でも貫いたホークスの伝統
想起させた3月の言葉「自分でいいんですか」
斉藤和巳監督の胸に深く刻まれた言葉

3月のある日…試合終盤の代打に「自分でいいんですか」

 5月26日の日本ハム戦は午後6時開始のナイターゲームとして行われた。嶺井は昼過ぎごろ、アーリーワークよりも先に室内練習場に姿を見せ、渡邉陸捕手とともに黙々とマシン打撃に励んでいた。「今日は本当に、たまたまですよ」。代打として出番が来たのは午後8時58分。積極的に仕掛けたことで打席は一瞬で終わってしまったが、この“たった一球”に全てをかけるために9時間も前から準備を始めている。その姿勢は、春先から何も変わっていない。

 3月のある日、ベンチスタートだった嶺井は、いつ出番が来てもいいように準備を繰り返していた。試合終盤となり、斉藤監督から代打に指名された。背番号12は思わず「自分でいいんですか」と口にしたという。ファームは育成が重要視されるだけに、34歳の出番も自然と限られる。本人は「覚えていないです」と照れ笑いしたが、グラウンドに立てることを“当たり前”だと捉えていないからこそ、口をついた感謝の言葉だった。

「そんなのは関係ないので。結果が全てです。何をやっても、できなかったら意味がない。この前も話したことがあるかもしれないですけど、(後輩に)自分を真似してほしいとも思わないですし。結果を出すための準備をしていかないといけないです」

 自らに厳しく言い聞かせる背番号12だが、春季キャンプから見守っている斉藤監督は、34歳のベテランに最大級のリスペクトを送る。「今日は(代打で)『嶺井いくよ』となったから。ずっと変わらずにやってくれているし、そのチャンスを大事にしようとしているからあれだけ準備しているわけでしょ」。嶺井自身は「真似しなくていい」と言うが、若鷹たちのお手本になっていることは、首脳陣も感じ取っている。「自分でいいんですか」という謙虚な言葉は、指揮官の胸にも深く刻まれていた。

9回に敵失で出塁した嶺井博希【写真:竹村岳】
9回に敵失で出塁した嶺井博希【写真:竹村岳】

高谷裕亮コーチが理解する嶺井博希の“気持ち”

 2021年に現役を引退した高谷コーチは、40歳までプレーヤーとしてグラウンドに立ち続けたからこそ、ベテランの気持ちが理解できる。「僕も最後の方は膝のこともあって、アップから別メニューでした。それに絶対に甘えちゃいけないと思っていましたし、トレーナーの人たちに『やるのは僕なので』ということもあった。“啖呵”を切っている手前、半端なことはできなかったですよ」。年を重ねるほど、準備は入念になる。嶺井が見せる姿から伝わってくるのは、感謝と謙虚さだった。

「どんな時でも、1つのプレーを無駄にしない。春先にしても、今日にしても代打で打席をもらえることを『当たり前』と思っていないんじゃないですか。早い時間から打ち始めているのも、今日だけじゃない。『あの練習があったから』という打席が、いつか来るように。『あの時、ああしておけばよかったな』と後悔しないための準備でもありますよね」

 背番号12は「1軍を経験させてもらっていますから」と汗を拭った。プロ野球選手として“一球”を大切にする。どんな環境であろうと、嶺井博希が貫く信念だ。

(竹村岳 / Gaku Takemura)

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