ファーム・リーグでは9試合連続で無失点
コツコツと取り組んできたからこそ、ようやく“正解”の形がおぼろげに見えてきた。開幕からチャンスを待ち続けてきた大山凌投手が22日、待望の今季初昇格を果たした。ファーム・リーグでは9試合に登板して無失点。自己最速タイとなる154キロを計測するなど、少しずつ本来の姿を取り戻している。
プロ2年目だった昨シーズンは26試合に登板して防御率2.35。1勝1敗1セーブ3ホールドと、さまざまな起用に応えてブルペンを支えていた。しかし、8月3日に登録抹消されると、再び1軍に戻ることはなかった。直球がシュート回転する悪癖を克服できず、「どういうふうに進んでいきたいのかは明確にあるんですけど、そこに感覚が追いついてこない」と漏らしたこともあった。
昨年の登録抹消から10か月が過ぎ、ようやく1軍の舞台に戻ってきた。確実に形になり始めている感覚、そして「このままでは絶対に終わりたくない」という右腕の信念――。ありのままの現状を打ち明けた。準備を重ねた2軍の期間、改善点として着目したのは自らの「脳」だった。
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この先で分かる3つのこと
シュート回転を克服するために着目した「脳」
“半年ぶり”に…4月前半に感じた「しっくりきた瞬間」
前田悠伍の言葉に得たヒント。最後に大切なのは反復
ヒントになった大学時代の経験「肘を怪我したんです」
「右の手のひらから、脳に伝達する部分が弱くなっていたのかなと。頭の中で『こう動かしたい』というイメージ通りに、しっかりと体が動くように。右手の感覚を思い出すような作業をしてみたことが、きっかけにはなったのかなと思います」
右腕は具体的な“例え”を用いて、自身の身を襲っていた症状を解説する。ヒントになったのは、東日本国際大時代の経験だ。
「一番近かったのが、大学時代。肘を怪我したことがあるんですけど、痛めた後ってどうしても腕が伸び切るのが怖いんですよね。だから肘が伸び切った位置でリリースしているつもりでも、実際は全然曲がっているところでボールを放してしまう。だから引っ掛けてワンバウンドになるし、『そこでリリースするんだ』と脳が覚えているからなんです。頭の中と実際の感覚を一致させる。簡単そうに聞こえるかもしれないですけど、それが大事なんだなと思いました」
今年2月の春季キャンプ中には右肩を痛めて戦列を離れた。タマスタ筑後で過ごしたリハビリ生活。肘や肩に故障歴がある選手に、とにかく意見を求めた。「それこそ(前田)悠伍も去年の9月に左肘を手術したじゃないですか。『感覚どうやって治したん?』って聞いたら『治ったとかない』と言っていたので。やっぱり投げて覚えるしかないんかなとは思いました」。どれだけ知識を身につけようと、大切なのは反復練習。登板しない日だとしても、傾斜を使って投げるのが大山のルーティンだ。逃げることなく、ヒントを探す日々が続いた。
半年以上も遠ざかった感覚…大山凌を突き動かした信念
自身のことを“投げたがり”と称する背番号53。しかし、どれだけ腕を振っても「しっくりくる感覚はなかったですね。それが半年以上も続きました」。投手にとっては、まさに辛さしかない期間。大山凌というプロ野球選手を、突き動かしてきたのは――。
「目標とか、自分の中に信念みたいなものがあったからやっていましたけど、正直つまらないじゃないですか。だけど、やらなきゃクビになるしかない。とにかく自分の元々のボールを投げたいという思いと、もっといいピッチャーになって戻りたかったので。そういうモチベーションだけは残しながら、なんとかやってこられたのかなと」
感覚が良化した決定的な瞬間は、タマスタ筑後で行われた4月前半の2軍戦。試合には登板しなかったが、ブルペンで肩を作っていた時に「そこがめっちゃよかったんです。だから終わってからもブルペンで40球くらい投げましたね」。その後、3軍の関東遠征にも参加するなど、場所を選ぶことなく実戦登板を重ねていった。
「いけるかも」――。ようやく手応えを感じ始めたのは、5月になってから。「力を伝えたい方向があるじゃないですか。そこに対してしっかりとアプローチして、いい真っすぐが出るようになってきた。本当にいろんなことを試してはやめ、試してはやめたので。遠回りしたんですけどね」。そう笑う表情にも、右腕が味わってきた苦悩がにじんでいた。「1軍に行きたい」と口にするようになったのも、ここ最近のことだ。「コツコツやること」を貫いてきたから、ようやく目線が前を向くようになってきた。
小学2年の時から始めた野球。「好きとか、そういう感覚はないかもしれないです」と笑う。15年以上、白球を追いかけてきた。クビになれば、キャリアはここで終わるかもしれない。「抑えたら嬉しいし、投げて嫌な思いもしましたよ? なんて言うんですかね。今までいっぱい野球をしてきたので、納得して終わりたいだけなんです。このままじゃ終われないでしょう」。力強い口調で決意を語る。積み上げてきた自信を胸に、大山凌が1軍に帰ってきた。
(竹村岳 / Gaku Takemura)