元ドラ1右腕が選手目線で明かす…マウンドで“間”を取る本当の意味 上茶谷大河に伝えられた言葉

  • 記者:高橋純平
    2026.05.12
  • 1軍

【特任記者・高橋純平】が初取材

 鷹フルをご覧のみなさん、こんにちは。高橋純平です。この度は「鷹フル特任記者」として、取材および記事を執筆させていただくことになりました。ホークスの選手たちが試合の中で何を考え、感じ、どのような判断をしているのか。僕自身、プロ野球の世界に身を置かせてもらった人間です。だからこそ、中継映像やスタンドからは見えにくい部分で、選手たちが本当はどこに神経を張り巡らせているのかを、自分の経験も踏まえて敬意を持って言葉にしていきたいと思っています。

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「しっかりやり返すという思いでマウンドに上がりました」

 そう言って少しだけ微笑んだのは、上茶谷大河投手です。

 10日にみずほPayPayドームで行われたロッテ戦。上茶谷投手は3点リードの6回にマウンドへ上がりました。前日は2点リードの7回1死から登板し、ポランコ選手と寺地選手に連続四球。1点を失い、その後にチームは逆転負けを喫していました。

 僕も現役時代は主にリリーフをやっていました。役割を果たせなかった試合の翌日のマウンドが、体の重さと心の重さの両方を抱えて立つ場所だということは、嫌というほど知っているつもりです。

 やられたら、次の日にはすぐにやり返したいと思うのが中継ぎ投手です。1週間に1度しか登板が巡ってこない先発投手と違って、リリーフはそれが許されます。当然、前日に投げていれば体の重さはありますが、それ以上に気持ちが勝るもの。かつての自分の姿が重なることもあって、上茶谷投手のこの日の投球を注目して見ていました。

 決して簡単な1イニングではなかったと思います。先頭の友杉選手に左前打。続く代打・佐藤選手と代打・ポランコ選手を空振り三振で取って2死としましたが、続く高部選手に中前打を許して2死一、二塁とピンチが広がりました。

 ここで打席に向かったのは、この回で3人目の代打となる池田選手でした。このタイミングで、キャッチャーの渡邉陸捕手と倉野信次1軍投手コーチ(チーフ)兼ヘッドコーディネーター(投手)がマウンドに向かい、内野陣も集まりました。

 僕が今回、上茶谷投手に一番聞きたいポイントはここでした。リリーフとして、あまり知られていないであろう“大事な要素”が詰まった場面だったからです。

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この先で分かる3つのこと

経験から語られる、怖いバッテリー間の“意志のズレ”とは
倉野コーチからかけられた、背中を押すシンプルな言葉
前日の悔しさを抱え、リリーフが背負っている過酷さ

前日は1失点でチームは逆転負け…心身ともに重さを抱えながら

 というのも、中継ぎ投手は相手の全打者のデータが頭に入っているわけではないのです。試合前に行うバッテリーミーティング。先発投手は一通り相手打者のデータを頭に入れ、コンビを組む捕手と攻め方を確認します。一方でリリーフ陣の場合は、自分の投げるポジションで回ってきやすい打者、左右の兼ね合いや対戦成績の良し悪しで出てきそうな代打1番手、2番手くらいまでを重点的に頭に入れます。

 また、登板を伝えられてからマウンドに行くまでも、それほど時間があるわけではありません。ブルペンでの投球練習は10球前後。短時間で準備を整えるため、必然的にそこで頭に入れられる相手打者のデータも限定的になります。3人目の代打となると、なかなかデータが頭に入っていないもの。上茶谷投手もそうだったのではないか、と感じたのです。

 こうした状況でそのまま打者を迎えた際に、特に怖いことがあります。例えばの話ですが、積極的に打ちに来るタイプの打者相手に、初球の入りでフォークを選んだとします。捕手側は「初球から決め球のつもり」で要求したのに対し、投手側は「ストライクを取りに行くカウント球」と思って投げてしまう。こうした「意図のズレ」が生じると、痛打を浴びる確率が高まります。

 捕手や投手コーチがマウンドに行くのには状況ごとにさまざまな理由があるのですが、そうした意図のズレを無くすためというのがその1つです。データ、捕手が考えていること、投手が考えていることを、もう一度すり合わせる。このとき、上茶谷投手と渡邉陸選手はその作業をしているのかも、と感じました。

「マウンドで何を話していたんですか?」

 上茶谷投手に問いかけると、返ってきた答えはシンプルでした。「間を取りに来ただけですよ」。上茶谷投手の場合、池田選手とは昨季2度の対戦経験がありました。「去年もやっているし、僕は結構データを見る方なので」。情報は頭の中にあったと振り返った右腕。流れを変えるために一呼吸置くというのが、この時の目的でした。

 渡邉陸捕手とは入り球と勝負球、攻め方の確認を行ったのでしょう。倉野コーチからは「とりあえずゼロで帰ってきてくれたらいいから。(3アウト目を取るのは)誰でもいいし、ゼロで帰ってきてくれ」と声をかけられたそうです。複雑なことは言われず、シンプルに背中を押されたという上茶谷大河投手。結果的に池田選手を空振り三振に仕留め、見事に前日の悔しさを晴らしてくれました。

 皆さんも見て分かるように、今年の上茶谷投手は球に勢いがあり、安定感抜群です。それは映像でも、現場で見ても伝わってきました。日々、体の状態が違う中で「ゼロで帰ってくる」ことを常に求められるリリーフという仕事は想像以上に過酷です。その中で、上茶谷投手のように役割を問わず、仕事を果たしてくれる投手はチームにとって希少な存在です。

 中継ぎの1イニングというのは、テレビの画面ではあっという間に過ぎていく時間です。でも、その1イニングの中にはマウンド上に集まる数十秒があり、捕手との視線のやり取りがあり、投手が1人で背負っているものがある。ぜひその「短い時間の中身」にも目を向けてみてください。きっとホークスの試合が、もう一段面白くなるはずです。