ロッテ戦にサヨナラ勝ち…指揮官も絶賛した9回2死の二盗
独自の目線で選手の本音に迫る新連載「鷹フルnote」。野村勇内野手の5月編をお届けします。8日のロッテ戦(みずほPayPayドーム)で、サヨナラ勝利につながる安打を放ち、二盗を決めた29歳。その裏にあったのは、期待を捨て、頭の中を切り替えた明確な瞬間でした。きっかけとなった裏方さんの言葉。「過去の話はやめろ」――。
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1点を追う9回1死、左前打で出塁した背番号99。2死となり、ゲームセットまであとアウト1つ。勇気を振り絞ったのはこの場面だ。牧原大成内野手に対する初球でスタートを切り、二盗に成功。「走れるタイミングはずっと狙っていたので、あそこは行った方がいいなと思って仕掛けました」。今季初盗塁を決めると、適時二塁打で同点のホームを踏んだ。
小久保裕紀監督も「ツーアウトからよくスチールしましたね。あれが結果的にサヨナラ勝ちにつながったと思います」と絶賛した大仕事。今季はここまで23試合に出場して打率.163。この1本が5月の初安打だった。チャンスは限られ、厳しい状況が続く中、「ちょうど切り替えられたんです」と語ったのが4月30日の出来事だった。
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この先で分かる3つのこと
「9回2死の二盗」サヨナラ勝ちを呼んだ29歳の勇気
理想と現実の狭間。4月30日に決意を新たにしたわけ
「過去の話はやめろ」裏方さんからド直球の進言
見失っていた昨年の信条「ここからまた頑張ろう」
「『後からじゃなくてスタメンで出たい』と思っていたんですけど、去年もそこから始まったので。与えられたポジションを全うしようと、考え直しました。そこをおろそかにして『スタメンスタメン、打ちたい打ちたい』じゃ、なかなか無理なのかなと。だから、ここからまた頑張ろうかなと思いました」
4月30日、野手は休日だった。具体的なきっかけについては「なんですかね、わからないです」と言うが、再び足元を見つめると決めた大切な節目であることは間違いない。
12本塁打を放ち日本一に貢献した2025年。5月1日に初スタメンを託されたが、それまではわずか2安打で春先は守備・代走が主戦場となっていた。頂点に立つまで活躍を続けたことで、自分に対する期待も大きくなる。「今年レギュラーにならないと、終わりでしょう」。開幕スタメンという絶対的な目標を掲げ、2026年に飛び込んだ。
スタメンとして、グラウンドに立ち続けたい――。シーズンが始まると、理想と現実のギャップを抱いていた。しかし昨年の自分が掲げていたのは、たとえ途中出場であっても「与えられた役割に全力で集中すること」。その信条を思い出したのが、4月30日の夜だったのだ。「まだ全然諦めていないです。ここから巻き返します」。そう言い切る口調は、4月と比べてもはるかに力強くなっていた。
「過去の話はやめろ」…声の主は同学年の松葉アナリスト
サポートする裏方さんも、背中を押してくれる。本拠地開催の時、試合前の打撃練習を終えるとスコアラーチームと相手先発に対するアプローチを話し合うのが野村のルーティンだ。4月7日の西武戦で「過去の話はやめろ」と言い放ったのが、野村と同学年の松葉真平アナリストだった。厳しくも聞こえる言葉の真意を、こう明かした。
「その前のカードがロッテ戦だった。移動日も挟んでいたのに、そこで(4月3日に対戦した)毛利の話をし始めたので、軽い感じではありましたけど『きょうのピッチャーだろ』というやり取りはしましたね。これまでは、割と引きずりがちな選手だと思っていたんですけど、去年活躍したことで『いやいや、そこはもう一皮剥けたでしょ』と僕も感じていたのかもしれないです。力はあるんだから、自分で前を向いてもいいじゃないですか」
野村自身もこの会話を覚えているという。「目の前のピッチャーに集中してほしい、と言われましたね」。打撃投手やアナリストなど、さまざまな裏方さんの意見に耳を傾けて自分自身の打撃を作り上げてきた。ハッとさせられ、あらためて目の前の一瞬に集中しようと思わされた出来事だった。
試合前、松葉アナリストと言葉を交わすことで相手投手へのイメージをすり合わせる。方向性を決めるだけではなく、はっきりと「きょうはこうする」と宣言してからミーティングルームを後にするという。「考えるだけじゃなくて、整理して発言しています。誓ってから出ていきますね」。それもまた、野村が大切にしている“こだわり”の1つだ。
「状態が悪い時とか、ボールが見えてなさすぎる時は言われたことができなくて、申し訳ない気持ちになっちゃいます。だけど、口に出したら忘れないじゃないですか。後になってから『こっち打つなよって、確かに言われていたな』と反省ができるように、言葉にするようにしています」
重圧がかかる場面で二盗を決められたのも、自分自身の役割に集中していたから。限られた出番の中から、チームの勝利に貢献しようと必死だったからだ。「しっかり足から試合に入っていけたので、それは良かったなと思います」。もう己の信条を見失うことはない。真っすぐに語る言葉には、野村勇の確かな意思が宿っていた。
(竹村岳 / Gaku Takemura)