上茶谷大河がマウンドで「膝に手をついた瞬間」
手に汗を握るような大ピンチでも、決して浮き足立つことはない。常に堂々としていられるのは、かつてマウンドで自分自身の“弱さ”を曝け出してしまったからだ。
「そんな姿、絶対に見せるな」――。
開幕からブルペンを支えている上茶谷大河投手。右腕が今も守り続けているのは、ルーキーイヤーに授かった大切な教えだ。
2024年オフに行われた現役ドラフトで加入し、今季がホークス2年目。オープン戦から結果を残すと、リリーフとして開幕1軍入りを果たした。5日に行われた西武戦(ベルーナドーム)では2点をリードした5回1死二、三塁から登板。走者を返さない好リリーフで、早くも3勝目を手に入れた。「自分の持っているボール全てを使って、あとはキャッチャーを信じて投げようと思いました」。
今季は8試合に登板して3勝0敗、防御率1.50。小久保裕紀監督をはじめ、首脳陣の信頼は高まってきている。2018年に行われたドラフト会議で1位指名を受け、プロの世界に飛び込んだ。8年目を過ごす右腕にとって、忘れられない“屈辱”の被弾がある。絶望のあまり、マウンドで膝に手をついた瞬間――。恩師の言葉を思い出す。
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この先で分かる3つのこと
上茶谷大河を絶望させた大ベテランの“3ラン”
何時間もミーティング…横浜時代にある右腕の原点
重くのしかかった不甲斐なさ。マウンドで「うわあ…」
ルーキーイヤーの4月…阪神・福留に浴びた特大の一発
「木塚(敦志)コーチから『そういう姿勢は中継ぎのピッチャーや、守っている野手、ベンチの選手みんなにうつってしまうから。絶対にするな』と言われました。その1本を打たれたことでサヨナラ負けするならまだしも、先発投手は“その日の代表”としてマウンドに上がる。『まだ試合が終わっていない状況で、お前がそういう姿勢を見せるな』と教わりました」
右腕が振り返ったのは2019年4月23日、横浜スタジアムで行われた阪神との一戦。2回までに3点を失うと、5回には福留にバックスクリーンに飛び込む特大の3ランを浴びた。打球がスタンドに消えていく景色まで、鮮明に覚えている。上茶谷がマウンドで膝に手をつき、下を向いた瞬間だ。その姿を、木塚コーチは見逃していなかった。
ドラフト1位指名を受け、自分に対しても大きな期待を抱いて飛び込んだプロの世界。開幕ローテーションに入りながらも勝ち星なし、これがシーズン4試合目という状況だった。プロの厚い壁にぶつかり、22歳だった上茶谷の気持ちはへし折られた。
「その時はあんまり上手くいっていない時期だったので。なかなか勝てない試合が続いて、悔しさと、不甲斐なさが……。スタンドに入った瞬間に、ドっと上から重りがのしかかったような感じでした。『うわあ……』という思いがあったので、自然とそうなって(膝に手をついて)いたんだと思います」
1年目に授かった数々の教え「何時間もミーティングを」
木塚コーチから呼び出されたのは、翌日の練習中だったという。諭すのではなく、厳しい口調ではっきりと伝えられた。
「もう絶対にするなよ。そんな姿勢は絶対に見せるな」
横浜時代の7年間で積み上げたのは20勝。思い通りに行かない時も、マウンド上で毅然とした姿勢だけは貫いた。「何回か(試合中に)下を向いてしまいそうな時もあったんですけどね。『あ、それはあかん』と思って(胸を張るように)。それも厳しく教えていただいたおかげです」と感謝を忘れない。周囲の目線に意識を向け、立ち振る舞いにまで気をつけられるようになった。自分自身を変えた出来事だ。
8月には30歳を迎える右腕。ホークスに加入すると、前田悠伍投手をはじめ多くの後輩に手を差し伸べている。今では頼れる“兄貴肌”となった上茶谷にとって、たくさんの人に助けてもらったルーキーイヤーはどんな位置付けなのか。
「ベイスターズは明るいチームですし、野手の人にもたくさん声をかけてもらいました。1年目は必死に投げるだけで、正直、何も考えていなかったですから。キャッチャーの伊藤光さんにはめちゃくちゃ配球を教えてもらって、何時間もミーティングをしたことがあります。自主トレでもヤスさん(山崎康晃)についていったり。怒られもしたので苦しかったですけど、めっちゃ楽しかったですね」
8年間で通算137試合に登板。ホークスの戦力として腕を振り、お世話になった人たちへ恩返ししていくつもりだ。「まだ始まったばかりですけど、今後もしっかりと継続してやっていけるように頑張りたいと思います」。チームメートとファンの思いを背負って、マウンドに立つ。“毅然”とした姿を貫いているから、上茶谷大河を応援したくなる。
(竹村岳 / Gaku Takemura)