「こっちは『頑張り続けろ』と言うしかない」
独自の目線で選手の知られざる本音に迫る連載「鷹フルnote」。今回は斉藤和巳2軍監督の視点から、ファームで汗を流す若鷹たちの現在地に迫ります。シーズン序盤を戦っている中で、指揮官の目に最も逞しく映る選手は誰なのか。圧倒的な成長曲線を描く右腕の名前を明かす一方で、野手で挙げたのは、ひたむきに泥にまみれる“あの選手”でした。表面上では見えにくい、若き才能の心の機微と、指揮官の親心に迫りました。
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目立たない場所での泥臭い歩みが、確実に誰かの心を動かしている。その確信が、指揮官の言葉には宿っていた。若手たちがしのぎを削る筑後のグラウンド。斉藤和巳2軍監督の視線は、結果という数字以上に、そのプロセスに潜む「覚悟」を見抜いていた。
今、最も眩い輝きを放っているのは誰か。その問いに、指揮官は迷うことなく、藤原大翔投手の名を挙げた。「誰が見てもそうやけどね。ずっとコンスタントに良いピッチングをしている。キャンプからずっと維持しているし、投げるたびに成長の度合いが一気に上がっている」。圧倒的な成長曲線を描く若き才能。その進化の裏側にある“継続の力”を斉藤2軍監督は高く評価する。
一方で、指揮官が「心」を寄せる存在がいる。野手陣の激戦区である三塁、外野を中心に、もがきながらも前を向く井上朋也内野手だ。同じポジションの選手が密集し、限られた出場機会を奪い合う日々。「こっちとしてはそういう選手が巻き返して欲しいなって思うよね」。そう語る指揮官の目に、背番号43の姿がどのように映っているのか。
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この先で分かる3つのこと
斉藤2軍監督が驚いた、井上朋也の波を小さくした「心の持ち方」
指揮官を揺さぶった、中からしか見えない「井上の姿」
1軍昇格の条件。斉藤2軍監督が語る「腐らない心」の重み
2月の春季キャンプ、井上はA組でスタートを切り、オープン戦も1軍に帯同したが、3月20日の広島戦後に降格が告げられた。這い上がらなければならない重圧の中で、これまでは結果や内容の波に苦しみ、悩むこともあった。だが、指揮官は「その波が昨年よりも小さくなった気がする。考え方や気持ちの持ち方で波が小さくなってきたのかな」と、昨年までとの違いを感じるという。
井上の変化について、斉藤2軍監督はこうも明かす。
「あまり目立たないかもしれないけど、試合に出ていなくてもベンチでしっかり声を出してくれるし、練習でもいろいろ考えながらやっている。結果が出る、出ないに関係なくね。そこに関してはコーチもみんな思っているところではあるし、そういう選手に活躍して欲しいなと思う。トモ(井上)に関してはずっと見ているからね」
「あまり見えへんところ」首脳陣の心を揺さぶる変化
その変化は、数字には表れない、“行動”に表れていた。井上が2軍に合流した3月21日から、チームはファーム・リーグで28試合を消化した。そのうち、井上の出場数は18試合に留まる。三塁ではドラフト5位ルーキーの高橋隆慶内野手が、チームトップの出場数にあたる29試合に出場し、打席数は119。一方で、井上の打席数は64となっている。
そんな状況にあっても、必死に自身の可能性を探り、短所を補おうとする井上の姿を何度も目にする。試合前練習ではサードの守備練習を終えた後に、すぐさまセンターのポジションへ走り、誰から言われることなくノックを要求する。現状に目を背けず、ひたすらに汗を流す。際立つ意識の高さと行動力が、そこにはある。
「試合中もずっと声を出している。それって、中にいないとあまり見えへんところだと思うんよね。チャンスが限られている中、2軍でも同じ守備位置の選手が密集しているから、出たり出なかったりはもちろんあるけど、それは本人が一番わかっていると思う。それでも腐らずにできるというのは、上に行くための第一条件。それができない選手もいるので。こっちは『頑張り続けろ』というしかない」
勝負の世界に身を置くかつての大エースの言葉には、不器用ながらも必死に前を向く23歳への愛情がにじみ出る。つい先日も、指揮官はコーディネーターと練習を見つめながら「よく頑張っていますよね」と語り合ったという。数字だけでは計ることがことができない、グラウンドの裏側で積み重ねられる無数の「声」と「汗」が、確実に首脳陣の心を揺さぶっていた。
少なくなってきた“出場機会”
井上自身も「チャンスがないわけではないんですけど、去年や例年よりも少なくなって。立場的にも危うくなってきていることはわかっています。技術面もそうですけど、やっぱりメンタル的にも、『毎回頑張る』とは思っているんですけど、結果がついてこないとやっぱりきつくなってきて。でも『もう1回頑張ろう』っていう、その繰り返しです」と前を向く。自身の立ち位置を痛いほど理解しているからこその言葉だった。
もともとシャイで、少しばかり人見知りな性格ゆえに、他の選手とはコミュニケーションの取り方が少し違う、と斉藤2軍監督は語る。そんな23歳の心の機微を、指揮官は誰よりも細やかに見守っている。「その姿はずっと見ている。頑張ってほしいなと思う――」。再び1軍の舞台に立つ日まで。筑後で流した汗は必ず道標となる。指揮官の熱い眼差しは、井上朋也の背中を静かに、力強く押し続けていた。
(飯田航平 / Kohei Iida)