前田悠伍が見せた真骨頂 かつては認めた「ごまかし」の弱さ…初先発に思い浮かべた4か月前の本音

  • 記者:竹村岳
    2026.05.04
  • 1軍
今季初先発を果たした前田悠伍【写真:栗木一考】
今季初先発を果たした前田悠伍【写真:栗木一考】

3年間で積み上げてきた真骨頂…今季初先発で5回無失点

 6イニング目を託されなかった采配は「まだそこまでの投手ということ」と、真っすぐに受け止めた。ただ、自身の役割をしっかりと果たしたのも確かだ。3日の楽天戦(みずほPayPayドーム)で今季初先発を務めた前田悠伍投手は5回を投げて無失点の好投を見せた。64球に込められていたのは、3年間で磨き上げてきた“真骨頂”。かつては「ごまかし」と自嘲したその投球スタイルこそが、20歳の左腕が“勝つためだけ”に選んだ生き抜く戦略だった。

 4月26日のロッテ戦(平和リース)で先発登板したが、2回で雨のためノーゲームに。中6日で、改めてまっさらな本拠地のマウンドに上がった。4回には2死一、三塁のピンチを背負ったが中島を左飛。5回を投げ切ったところで小久保裕紀監督に肩を叩かれ、リリーフ陣にバトンを託すことになった。チーム29試合目で迎えた自身の“開幕戦”。チームは敗れたものの、まるで修羅場をくぐり抜けてきたベテランのような冷静さでゼロを並べた。

「もう少し投げられたらよかったんですけど、最低限の役割というか、ピッチングはできたと思います。ピンチではちょっと真っすぐが浮いてしまうこともあったんですけど、ある程度は粘ることができたので。明確な課題を潰しながら、次はしっかりと、自分のボールを投げられたらなと思います」

 目指す理想像は、もっとハイレベル。課題について深く理解していると同時に、今季初登板で見せた「64球」には左腕が磨き続けてきた“真骨頂”も詰まっていた。2軍では自分の「弱さ」と定義していた“小手先”のピッチング。舞台が1軍に変わると、それは打者を打ち取っていくための大きな修正能力として発揮された。特筆すべきは、球種の割合だ。

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この先で分かる3つのこと

「まだそこまでの投手」。厳しい自己評価も
自身の状態を察知し瞬時に切り替えた“修正力”
「2軍はもういい」。渇望が生んだ、真の“プロの投球”

今年の1月に漏らした本音「ごまかしながらやってきた」

 この日投じた直球は26球。全体の半分以下で、フォークとカーブを中心に配球を組み立てた。「前のロッテ戦に比べれば、球が走っていない感覚は僕の中でもありましたし、その話は(渡邉)陸さんともしていました。変化球を低めに集めていく意識があったので、内野ゴロが多くなったのかなと」。ランナーを背負えば、ボールを持つ間合いの長さも変えるなど、投球術まで駆使して相手打線に立ち向かった。緩急とコントロールを活かしながら、マスクを組んだ渡邉陸捕手と共に、常に“最善”の球種を選択し続けた。

 ドラフト1位で入団して、今季が3年目。過去2年間、2軍では防御率1点台と確かな土台を築いてきた。そんな中、前田悠は今年の1月に自身の投球スタイルについて、こんな本音を溢していた。

「ごまかしながらやってきたというか。2ストライクになったら変化球って、ベテランみたいなピッチングじゃないですか。変化球を上手く使って、たまに真っすぐでいって、そういう感じで抑えてきた。もうそれだけじゃ、この先はダメなんです。“ここ”という時でも(相手に)合わせてしまっていたので、真っすぐで押せるようにならないと」

 変化球の制球力と、どんな時も慌てないマウンドさばきは前田悠が誇る大きな武器。しかし、自分自身も“小手先”であることを自覚するスタイルは、1軍レベルでは通用しないこともわかっていた。「もうそれで(2軍では)抑えられることはわかっているんです」。ルーキーイヤーからの2年間で、2軍で対戦した打者は557人。常にハードルは高く設定し、1軍の一流打者を打ち取ることを考えて鍛錬を積んできた。

 プロ入り以降、ファームでは出力という課題に向き合い続けてきた。変化球を投じれば打ち取れるような場面でも、時にはあえて直球を選択。どうすればストレートが通用するのか、その1点を忘れることはなかった。「身体も、めっちゃ頑張って鍛えてみたんですけど、それでしんどくなった時もありましたし、今はもうそこが全てではないのかなと思っています」。全力で取り組んできたからこそ、数多くの知識が身についた。技術面はもちろん、たくましくなった表情が左腕の成長を物語る。

バッテリーを組んだ渡邉陸と前田悠伍【写真:栗木一考】
バッテリーを組んだ渡邉陸と前田悠伍【写真:栗木一考】

2軍の大きな壁“器用すぎる”「反省して次に活かしたい」

 良くも悪くも“器用すぎる”――。2軍では乗り越えなければならない壁だったが、1軍は結果が全てだ。ストレートの状態を見極めて、変化球主体に切り替える。それは前田悠にとっては備えておきたい“最低限”の技術であり、投球における真骨頂――。この日はそれがしっかりと結果につながった。「一歩間違えれば長打になってしまう球もあった。反省して次に活かしていきたいです」。自身の投球スタイルを“ごまかし”と表現したのは、まぎれもない左腕の本音。しかし、1軍においては打者の芯を外す立派な「技術」へと昇華された。

 鹿児島でのロッテ戦に続き、バッテリーを組んだのは渡邉陸だった。前回登板では、立ち上がりから6球連続でストレート。西川に浴びた右越えのソロアーチも、141キロの直球だった。「きょうは対戦するバッターを考えた時に、ちょっと変化球が多くなりました。いろんな選択肢がある中でも上手く修正して、ゲームを作れる。それが彼の持ち味なので、よかったかなと思います」。反省を踏まえて、5歳年下の左腕と並べた5つのゼロは自信となったに違いない。

 大きな期待を背負い、ドラフト1位で入団して3年目。自主トレ中の1月から、自らに言い聞かせるように左腕はこう繰り返してきた。「2軍はもういいです。もっと1軍で投げたいので」。反省も収穫も得た一戦。前田悠伍の2026年が、力強く始まった。

(竹村岳 / Gaku Takemura)