1日の楽天戦で7回1失点…お立ち台で口にした“感謝”
ピッチャーとして持っている全てを駆使しながら、たどり着いた118球目だった。「信頼してもらって、あそこで投げさせてもらっているので。何としてでも抑える。悔いのないボールを投げたいなと思っていました」。飛球がグラブに収まり、ピンチをしのぐと、上沢直之投手は充実の表情で一塁ベンチへと引き上げていった。
1日の楽天戦(みずほPayPayドーム)、右腕は7回1失点(自責ゼロ)の好投で今季3勝目を挙げた。最大のピンチは同点で迎えた7回2死一、二塁。村林を中飛に抑えると、グラブをポンポンと叩いて感情を表現した。前回登板から中5日。初回に31球を要する苦しい投球だったが、先発として十分すぎる役割を果たせたのは頼れる“相棒”がいたから。ヒーローインタビューでは真っ先に、感謝の思いを口にした。
「初回に30球くらい投げたので、きょう帰るの何時になるのかなと思っていたんですけど。あそこで先制点を与えるか、与えないかで大きく違うので。海ちゃんがいいリードをしてくれたおかげで、切り抜けられました。調子自体もそこまでだったんですけど、ちょっといつもと違う配球で。海ちゃんがいいところを引き出してくれました」
今季6度の登板全てで、バッテリーを組んでいるのが海野隆司捕手。楽天打線を封じた118球にはある工夫が隠されていた。試合展開を見ながら、2人は最大の武器を“封印”していた――。
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この先で分かる3つのこと
初回31球の窮地から封印した“球種”とは
武器を捨てる勇気…上沢直之が語る「80点の強み」
海野隆司と試合中に紡いだ「勝利の方程式」
カーブは「毎試合80点で投げられる自信がある」
「きょう良さそうなボールをチョイスしながら、試合ごとに投球の割合を変えられるのも僕の強みだと思うので。偏らないというか。普段はツーシームとカットボールはこんなに多くないんですけど、そういうところでも海ちゃんと話をして織り交ぜていけたかなと思います」
上沢の持ち味といえば、大きく落ちるフォークボール。練習中から常に最善の握りを探し、カウント球にも決め球にも使える“代名詞”だ。この日投じたフォークは10球で、そのうちの6球が初回に集められていた。「最初も、落ちはよかったんですけどね」と言いつつも、変化に“ムラ”を感じていたという。すぐさま海野と意見を交換。直球系の球種に重点を置き、丁寧にアウトを積み重ねていった。
球種の多さは、右腕も「僕の強み」と認めるところ。しかし、最大の“武器”であるフォークをあえて使わないという選択は、勇気ある決断にも思える。変幻自在のピッチングを可能にしたのは、「緩急」まで操る確かな技術だった。
「いい落ちが継続してくれたら、それに越したことはないんですけど、そうじゃない日は必ずあるので。そういう日にカーブを使ったり、いろんなボールが選択肢にあれば困らないじゃないですか。きょうはそれができたのかなと思います」
中学から野球を始めた背番号10にとって、カーブは初めて覚えた変化球だった。指先の繊細な感覚が問われる球種だが、上沢は「スランプがないボールですね」と表現する。長い年月をかけて、身体にとことん染み込ませてきた。「フォークは難しいので、いい日と悪い日があったりするんですけど。カーブは毎試合、80点くらいには投げられる自信はあります。そういう意味で言っても、武器になってくれる球ですよね」。的を絞らせない総合力。上沢直之という投手の凄みが見えた登板だった。
海野も最敬礼「早めに見極めて上沢さんに伝える」
バッテリーを組んだ背番号62も、静かに胸を張る。初回の2死満塁のピンチを切り抜け、ベンチに戻るやいなや、右腕のもとに向かった。「『いいボール』というのはその日によって違うので。それを早めに見極めて、上沢さんに伝えるということです」。わずかな変化すら見逃さなかったのは、普段から密なコミュニケーションを心がけているから。海野の経験と洞察力があるからなせる立派な“技術”だった。
事前に意見を交換し、登板直前にはブルペンで球を受けてみる。どれだけ入念な準備を重ねても、本番はまったくの“別物”だと海野は言う。「試合にならないとわからないですね。ミーティングをしていても、マウンドに上がったらまた別になる可能性もある。だからこそ、試合中に感じたことを伝えるのが大事です」。どうすれば“ピッチング”が成立し、相手打者を封じていけるか。バッテリーが力を合わせて手にした1勝だ。
小久保裕紀監督は、上沢を「チームの先頭に立って引っ張ってくれているピッチャーです」と表現した。開幕投手から始まった2026年。指揮官の言葉に、あらためて背筋を伸ばす。
「(中5日も)信頼してもらっている証拠だと思いますし、監督やコーチの意思があると思うので。それに応えたかったです。僕も投手陣の中では結構(年齢が)上の方なので。口数多く話すタイプではないんですけど、そういうところでもプレーと背中で見せていきたいです。任されているようなポジションだと思うので」
118球に隠されたプロの技術――。上沢と海野の力で、もっともっと白星を重ねていく。
(竹村岳 / Gaku Takemura)