降格直後、筑後で聞いた「すいません」 1か月の“心境と変化”…やっと見えた笹川吉康の笑顔

  • 記者:飯田航平
    2026.05.01
  • 1軍

律儀な男が“すみません”に込めた思い

 独自の目線で選手の知られざる本音に迫る新連載「鷹フルnote」。今回は笹川吉康外野手の登場です。4月28日のオリックス戦(京セラ)で、今季初昇格し、即スタメン。起用に応える一打を放ちました。痛恨のミスを喫したことで、開幕直前に告げられた2軍降格。筑後で1か月を過ごしてきた中、思わず漏らした言葉は「すみません」――。決して口数が多くなくとも、誰よりも律儀な男。23歳の素顔に迫りました。

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「やっと戻ってこれましたよ」

 4月28日、京セラドームに姿を現した笹川吉康外野手はそう言って試合前の練習を始めた。スタメン起用に多少の緊張があったのだろうか。試合前に聞くことができた声はそれだけだったが、もどかしい日々を過ごしてきたことは、少しだけ精悍さが増した顔つきから伝わってきた。

 今季初昇格となったこの日のオリックス戦では「8番・右翼」でスタメン起用された。5回、バットを折りながらも右翼線に運び、今季初安打となる二塁打を記録。1点を追いかける7回には貴重な同点タイムリーも飛び出した。「追い込まれていたので軽打を意識しました」。ハーフスイングを取られてカウントを悪くしても、背番号44は動じることなく、飄々とした表情で次の球を仕留めた。ファームで過ごした1か月で得たものを感じさせるものだった。

 ようやくグラウンドで見ることができた笹川の笑顔。つい10日前、4月17~19日に筑後で行われたオリックスとのファーム・リーグ3連戦では計9打数無安打に終わり「全然ダメです」と自身の現状を口にした。その後の言葉はなく、こちらが返事をする間さえ与えないほどの足取りで、険しい表情のままロッカーへと姿を消した。

 しかし、2日間の練習日を経て笹川は変わった。24日から行われた広島との同リーグ3連戦では14打数7安打、2本塁打2二塁打3打点と打ちまくった。このカードを終えると、1軍から待望の報せが届いた。たった1週間の間に何があったのか。

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この先で分かる3つのこと

誰の助言でもなく、自ら鏡を見て掴んだ「復活への修正点」
筑後で漏らした「すみません」。その一言に込めた「真意」
同点打の裏にあった、庄子とハワイで交わした「ある誓い」

「微妙な自分のフォームですかね。左肘が開きすぎていたので。本当にちょっとしたことで捻転差が作れたり作れなかったりするので。そこに気づいてから良くなりました」

 誰からアドバイスを受けたわけでもなく、1人で鏡を見つめ、自身の感覚を研ぎ澄ませて調子を取り戻した。今季の目標に「1軍フル帯同」と掲げていた男が、開幕から1か月を経てようやくスタートラインに立った。

5分ほどの会話…最後にポツリと溢した言葉

 思えば3月。オープン戦の最終戦を終えた直後に、小久保裕紀監督から降格を告げられた。2軍合流から1週間が経った頃、筑後で笹川に「試合後、話を聞かせてほしい」と声をかけたことがある。5分ほどの会話の最後に、笹川はポツリと呟いた。「わざわざ筑後にまで来てもらって、すみません」。

 試合前に声をかけたことで、自分と話をしにきたのだと理解していたからなのだろうか。それとも現状に対する自分ヘの不甲斐なさからだったのか。何かを含ませたようにも思える「言葉の奥にある悔しさ」が、こちらの胸にも深く残った。

 あれから約1か月。1軍に合流した背番号44の「やっと戻ってこれました」という言葉には、確かな自信がにじんでいた。言葉を返すと、小さく頷きウオーミングアップに向かった。この期間を「長かったです。地獄の日々でした」と振り返る。それだけ多くの葛藤と戦い、自分自身を見つめ直してきたのだろう。

 28日の試合では、中学時代もチームメートだった庄子雄大内野手が代走で二盗を成功させ、直後に笹川が同点打を放つという共演を見せた。昨年、優勝旅行先のハワイで、笹川が庄子にお揃いのブレスレットをプレゼントし、今季の活躍を誓い合った。あの時の無邪気な誓いが、勝負の舞台で形になった瞬間だった。

「食らいついていくしかないですね」

 自らの力で這い上がってきた23歳に、もう迷いはない。誰よりも律儀な男、笹川吉康。6年目のシーズンがようやく始まった。

(飯田航平 / Kohei Iida)