1軍レベルの視点…“異例すぎる”指示の背景
首脳陣の期待の高さが感じられる、藤原大翔投手への“異例の指令”だった。「爪痕を残せ」――。本来なら、3桁の背番号を背負う若鷹に伝えるような言葉ではないはず。それだけ今、20歳右腕が1軍レベルに近づいている証でもあった。
29日に行われたファーム・リーグのロッテ戦(タマスタ筑後)で先発した藤原は、6回を投げて2安打1失点、8奪三振の好投を見せた。4回に振り逃げによる失点を喫したが、自責はゼロ。最速155キロを計測した右腕は、「最初からカーブ、チェンジアップの縦系の変化球でカウントを取れたのが良かったです」と充実の表情で振り返った。
今春キャンプから評価を積み重ね、3月にはファーム・リーグで“開幕投手”も務めた。誰もが期待を寄せる育成の有望株。2軍ではこれが5度目の登板で、防御率1.17と結果も残している。そんな右腕に与えられていた指令が「爪痕を残せ」だった。その背景には、どんな意味が含まれていたのか。支配下登録を掴み取った“その先”まで、首脳陣は見据えていた。
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この先で分かる3つのこと
「爪痕を残せ」首脳陣が異例の課題を与えた裏側
藤原大翔が理解する2軍戦の意味。あえて続けた「同じ球」
岡大海から得た収穫「155キロが打ち返される」
藤原の投球を「1軍レベルの視点で見る」
「『1軍だと思って投げろ、向こう(ロッテ)に爪痕を残せ』という話はしていましたね。『こういうやつがいた』と(記憶に)残るように。もし1軍のロッテ戦で投げたら『こいつ、あの時のピッチャーだ』と印象を与えられるように、とは思っていました」
そう明かしたのは、小笠原孝2軍投手コーチ(チーフ)だった。藤原が今後、支配下登録を勝ち取ればロッテは同一リーグで何度も対戦を繰り返す相手となる。今のうちから、強烈なインパクトを残してこい――。その指令は、右腕が技術面の課題をクリアしているからこそ与えられる、ハイレベルなテーマであったことは間違いない。右腕が許した安打はわずか2本。自責ゼロという結果はもちろん、十分すぎる“爪痕”を残した一戦となった。
ロッテのスタメンには通算541安打の岡をはじめ、高部や山口ら1軍での経験が豊富なプレーヤーが揃っていた。今の力量を測るには、これ以上ない相手。藤原の投球を「1軍レベルの視点で見る」――。試合が始まる前から、小笠原コーチも明確なテーマを持って展開を見守った。「あれだけのボール、なかなか投げられないですよ」。その投球は“合格点”を与えたくなるほどの十分な内容だった。
「持ち味は出せていました。数字的にもすごく良かったし、カーブを投げるタイミングが良かった。バッテリーの呼吸が合っているのは、事前に話し合っている証拠ですよね。過去を思えばピンチになればドタバタすることもあったんですけど、きょうはそれがなかったので。場数を踏んで成長しているんじゃないですか。相手も、1軍でバリバリのレギュラーだった選手もいたわけですし、そういう意味でもいい経験ができたと思います」
通算541安打の岡大海と3度対戦「“勘違い”しないで済んだ」
今の自分がどこまで通用するのか。藤原自身もまた、期待を胸にマウンドに上がっていた。
初回1死、岡に初球の155キロ直球を中前に弾き返された。2度目の対戦は4回無死。右腕は強気の攻めを見せ続ける。1球目から4球連続ストレート。「打たれたのと、同じ球で抑えたい気持ちはありましたね。あと1打席目とは違って、どんどんインコースを使っていこうと。しっかりと攻めることができたのも、僕の中では良かった部分です」。ラストボールは変化球で、この日唯一の四球を与えたが、明確なテーマのもと、配球を組み立てていた。
球数「86」で迎えた6回無死、再び岡との対戦だ。フルカウントからの6球目、151キロで三飛に打ち取った。経験豊富な34歳との刺激的な3度のマッチアップ。その内容に、小笠原コーチも目を細めた。
「155キロでも、1軍のバッターだと平気で打ち返すじゃないですか。それが良かったですね。ある意味、悔しいですけど“勘違い”もしないで済んだ。どんなにいいバッターでも、内側に甘く入ったら仕留められることもわかったと思うので。そこに変化球を混ぜるからボテボテの打球になったり、ワンバウンドでも振ってくれる。投球、配球の“繋がり”が理解できた登板になったと思います」
20歳が持つポテンシャルには大きな可能性が広がっている。「甘く入れば、1軍だと捉えられると思うので。厳しくいく時は、もっと攻めてもいいんだなと思いました」。登板内容を冷静に振り返る口調までもが頼もしい。支配下登録を勝ち取り、1軍のマウンドに立つ日まで、藤原大翔は“爪痕”を残し続けていく。
(竹村岳 / Gaku Takemura)