2月25日に右肘のトミー・ジョン手術を受けた
復帰まで1年以上という長い道のりを歩むことになった。「手術したからといって、死ぬわけではないので」。そう語る藤井皓哉投手の表情は明るく、清々しささえ感じさせた。みずほPayPayドームで、少し肌寒い春風を浴びながら語った胸中。頂点を掴んだ昨シーズン、右腕は周囲の勧めを振り切りながらチームに貢献していた。
2022年からホークスの一員となり、4年間で180試合に登板。昨シーズンは51試合でマウンドに上がり防御率1.44、50イニングで75奪三振という抜群の投球を見せつけた。2年連続日本一に向かって突き進む2026年シーズンも、必要不可欠な存在として誰もが信頼を寄せていた。そんな中で信じたくないニュースが飛び込んできたのは今年の2月25日だった。
「右肘内側側副靭帯再建術および関節クリーニング術」――。いわゆるトミー・ジョン手術を受けたことが球団から発表され、今シーズンのマウンドに立つことは叶わなくなった。
背番号48はなぜ、投手にとって“命”とも言える右肘にメスを入れる決断を下したのか。その「全て」を独占激白した。痛みを感じ始めた具体的な時期から、覚悟を決めた決定的な一球まで――。昨夏に抱いた違和感について、静かに口を開いた。
会員になると続きをご覧いただけます
続きの内容は
作りたくなかった“言い訳”。違和感を抱いた具体的な時期
宮崎のブルペンで走った“衝撃”。右腕が限界を悟った瞬間
リハビリにおける最大のテーマ「今しかできないので」
拒んだ検査「画像を撮ると気持ちが切れると思った」
「去年のオールスター前くらいですかね。シーズン中も(痛みが)ありながらやっていたので。『靭帯に損傷があるんじゃないか』『画像を撮ったら(損傷箇所が)出ると思いますよ』みたいなことは、実はチームドクターを含めてトレーナーからも言われていたんです。ただ、撮ってしまうと自分の気持ちも切れるかなと思った。勝負できるという判断を僕がして闘っていたので、それ以上言えることはないですね」
オールスターが行われたのが昨年7月23日と24日。その少し前から、右肘に違和感を抱いていた。シーズンの折り返しを意味する“夏の祭典”。藤井は後半戦以降も16試合に登板し、阪神との日本シリーズではピンチを脱する好投を見せて優秀選手賞にも輝いた。痛くても、投げると判断したのは自分自身。最後まで役割を全うしたのは、勝ちパターンを担ってきたリリーバーの矜持に他ならなかった。
「僕としては保守的に『怪我しないように、怪我しないように』という考えが好きじゃない。それだけだと自分の限界がどこなのかもわからないですし、1試合1試合が勝負だという思いが常にあるので。別に(靭帯が)切れたからと言って野球人生が終わるわけではない。大事なのはここからです」
日本一を掴み取り、オフシーズンに突入すると、右腕は口を閉ざすようになった。自主トレ地についても「日本のどこかでやりますよ」と最後まで明かさず。年をまたぎ、手術を終えても「静かにやりたかっただけですよ」と多くを語らなかったが、自分の空間を大切にしたかったのは確かだ。右肘と真正面から向き合いたい――。そんな思いも、オフの過ごし方に強く反映されていた。
2月17日にA組合流も…手術を決断した決定的な一球
今年の春季キャンプはタマスタ筑後での独自調整に始まり、2月17日に宮崎のA組へと合流した。メスを入れると決断したのは、その3日後だ。ブルペン投球を行うと「電気が走ったような感じがしました」。さまざまな方法を探してきたが、もう避けられない。手術を受け入れた決定的な一球だった。
「靭帯が弱いから、もうそうなっているんだなと。手術はオフの時から勧められていて『保存療法でやらせてください』という話はしていたんです。(ドクターと相談するのは)2回目でしたし、もうその時点では決心していたので、自分の方から『手術させてください』と言いました」
広島時代には構想外通告を受け、2021年には四国IL高知入りし、再びNPB入りを目指した。目の前の一球に、全てをかける――。泥臭く生きてきた男にとって、復帰に要する「1年以上」という時間はどんな意味を持つのか。
「基礎的な部分も含めて、若い時ぐらいやってみようかなと思っています。走る、投げる、トレーニングする。例えば18歳や19歳の子よりも上に行ければ、また面白いと思うので」。表情に宿るのは悲壮感ではなく、自分に対する大きな期待。2027年シーズン以降、復活を遂げるためにも地道な日々からは絶対に逃げない。
妥協なき準備を重ね、4年間で登板した180試合。ホークスのために216イニング、全力を尽くしてきた。「自分で決めた以上、言い訳はできないので。やるしかないです」。右腕を休め、さらに進化するための1年間。藤井皓哉は、必ず1軍のマウンドに帰ってくる。
(竹村岳 / Gaku Takemura)