新連載「鷹フルnote」に上沢直之が登場
独自の目線で選手の知られざる本音に迫る新連載「鷹フルnote」。今回は上沢直之投手の登場です。18日のオリックス戦(みずほPayPayドーム)では、9回1死まで無安打に抑える完璧な投球で2勝目を挙げました。今季の開幕投手を託された背番号10に、真正面から問いかけてみました。「エースとは、何か」――。右腕の答えに詰まっていたのは、32歳にしてキャリアの“終わり”を強く意識する、独特の価値観でした。
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大偉業の予感すら漂わせた見事な1安打投球。134球の熱投に、ホークスファンは新たな柱の“誕生”を確信したに違いない。試合が終わったのは午後9時1分。その2時間後、帰路に就いたのは上茶谷大河投手だった。上沢との親交が深い右腕は、驚きの表情で舞台裏を明かした。
「上沢さん、あのピッチングをした後も普通にウエートをやっていました。さすがにすごすぎます」。32歳の原動力は、飽くなき向上心。上茶谷は「エースの背中、ここにあり……」と呟き、本拠地を後にした。
上沢本人は「そんな選手じゃないですよ」と謙遜するが、チームメートからも「エース」という言葉が聞かれるほど、右腕に信頼が集まっているのは間違いない。これまで通算84勝を挙げ、移籍2年目の今シーズンは開幕投手も託された。その存在感は日に日に大きくなっている。
そんな右腕に問いかけた「エースとは、何か」――。32歳の若さで描くキャリアの「終焉」、そして今も大切に保管している1通の手紙。上沢直之の“理想像”に迫った。
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続きの内容は
上沢直之が語る「エースの条件」
初の開幕投手は2019年。栗山監督から託された手紙
32歳にして意識する「終わり」。言葉に滲む美学の数々
自身初の開幕投手は2019年…今も手元に残してある大切な手紙
「やっぱり大事な試合で勝てるピッチャーじゃないですか。大事な試合、大事な場面。シーズンを戦っていたらいろんなことがあると思いますけど、そこで“勝てるピッチャー”かなとは思います」
日本ハム時代に「絶対に負けられない試合」で敗戦投手になった経験もある。ホークスが日本一を掴み取った昨季のポストシーズンでは白星も黒星も味わった。
全てをかけた大一番で、結果を残せるかどうか――。その紙一重の“差”については「精神的な部分も大きいと思いますよ。“いつも通りできる力”があるか。変に気負うこともなく、やってきた通りのピッチングができるのは、大事なスキルだと思いますね」。乗り越えてきた数々の修羅場と、一切の隙を見せない徹底的な準備が今の上沢を作り上げている。
15年間のキャリアの中で、初めて開幕投手を務めたのは2019年だった。2月の米国・アリゾナキャンプ中に栗山英樹監督から呼び出された。大役を託された際に手渡されたのが、1通の手紙だった。
「『1年間しっかりと戦い抜いてほしいし、俺が責任を取る。お前を信頼して使うから』と言われましたね。栗山さんが感銘を受けてきたという本の一節が書かれていました」
福岡に移籍した今も、手紙は手元に残してある。チームを引っ張る主力としての自覚が、強く生まれた瞬間だった。
かつてホークスで7年連続2桁勝利を含む87勝を挙げた千賀滉大投手は、エースという称号について「考えて苦しんだこともあった」と明かしていた。どんな時間ですら、自らの行動を周囲に見られている。重圧と戦い続けるのは、並大抵のことではない。今のチームを支える上沢は「立ち振る舞い」において、どんなことを心がけているのか。
「僕は成績を残していようがいまいが、『どうこう』とは言われないようにしたいんです。活躍している時だけ態度が大きい人も、実際にいますから。そういうのは嫌だからなりたくないですし、常に同じ感じでいたい。僕もいろんな経験をしたので、いい時も悪い時も変わらないように。それはファイターズの時から意識しています」
「何歳までやりたいという明確な目標があるわけじゃない」
9回1死まで無安打投球を見せた18日のオリックス戦。充実のピッチングを見せた試合後、右腕は遠くを見つめながら口にした。「短い人生、いつまでも野球選手ができるわけではないので」。
プロ15年目の32歳。まだまだここから脂が乗ってきそうだが、その言葉はキャリアの“終わり”をも感じさせる。今の上沢には、一体どんな景色が見えているのか。
「逆に、他の人は意識しないんですかね? 僕は30歳を過ぎて、結構意識していますけど。そんなに先は長くないだろうし、『あと何年できるかな』と。ここからはもう“終わり”が見えている感じが僕の中にあります。だけど、何歳までやりたいという明確な目標があるわけじゃない。ずっと頑張って走り続けて、結果的にそこだったという考え方の方が僕は好きですね」
過去には右肘や左膝にメスを入れ、長期離脱を経験した。2024年には米球界に挑戦したが、大きな壁に直面。右腕も「挫折」と表現する1年間だった。味わった苦しみが多い分だけ、プロ野球選手としての“終わり”を強く意識している。だから上沢の一球一球は尊く、魂が宿っているのだ。
「違うチームでも開幕投手ができるようになるとは思っていなかったです。(小久保裕紀)監督のメッセージというか、意思は伝わってきたので。僕もそれに応えたいですし、シーズンを通して安定したパフォーマンスを出し続けたい。その思いは、より強くなっています」
2026年3月27日。まっさらなマウンドに立ったことで、右腕は投手陣の“顔”となった。2年連続の日本一を掴み取った時、きっとその称号を与えたくなる。上沢直之こそが、ホークスのエースだと――。
(竹村岳 / Gaku Takemura)