復調の兆しの裏にあった何気ないやりとり
苦しんでいた左腕の心を溶かしたのは、管轄を超えた首脳陣の「ささやかな優しさ」だった。15日、本拠地みずほPayPayドームで行われた楽天戦。7回2死二塁から登板したダーウィンゾン・ヘルナンデス投手は、小深田を二飛に打ち取りピンチを凌ぐと、8回2死までをピシャリと抑える好投を見せた。
「自分自身でもすごくコンディションがいいと思っています。今はその良いコンディションと投球の結果が結びつくように、努力している最中です」
今季はこの日までにチームトップタイの7試合に登板している左腕。防御率2.70はまだまだ本来の姿ではないだろう。時折、マウンド上でフラストレーションを露わにする場面も見られる一方で、12日の日本ハム戦(エスコン)では158キロを計測。徐々に剛腕が調子を取り戻しているところだ。
復調の兆しを見せた登板の前日、11日の試合前のことだ。ヘルナンデスに寄り添い、熱心に言葉をかける1人のコーチの姿があった。背番号63が交わした“言葉のキャッチボール”。そこには、技術指導だけでは埋められない「心の機微」を読み取ろうとする、ベテランコーチの深い眼差しがあった。
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続きの内容は
投手担当ではないコーチが、あえて助っ人に寄り添う「理由」
荒ぶる左腕の心を一瞬で静める、ベテランコーチが放つ「魔法の言葉」
遠征先の朝食会場でも…助っ人が「大好き」と語る意外な関係性
左腕に寄り添ったのは、大西崇之外野守備走塁兼作戦コーチだった。「いつも会ったら絶対に『おはよう』って。彼の場合は感情的になったりする時もあるからね。やっぱりチームにとっても、中継ぎのピッチャーに頑張ってもらわなあかんから。『冷静にならなあかんで。いつも応援してんで』って。向こうも『OK』とか言って話すんやけどね」。
管轄外であるはずの野手コーチがなぜ、ブルペンの鍵を握る助っ人外国人にこれほどまで寄り添うのか。その問いに、大西コーチは少し照れくさそうにしながらも、確信に満ちた口調でこう答えた。
「そんな話なんで聞くの?(笑)。でもね、やっぱり異国の地に来て絶対に寂しいやん。だから通りすがりのささやかなことでも、なんか話したりね。『元気?』とか言って。でもあいつ『元気か?』って俺に聞いてきよるんよ。『あかん、今ちょっとしんどいねん』とか冗談で言うねんけど、それってめっちゃ重要で。『あ、俺のことを見てくれてるんやな。気にしてくれてるんやな』と思ってくれることが、力になると思うからさ」
ヘルナンデスは、感情がボールに乗るタイプだ。マウンド上で頭に血が昇り、自滅しかける場面もしばしばある。大西コーチは今季の苦しい中継ぎ事情や、ヘルナンデスの性格を理解した上で、頻繁にコミュニケーションを図ってきた。技術的なアドバイスは担当コーチに任せ、1人の人間として左腕の“心の温度”を下げに行く。その絶妙な距離感が、ヘルナンデスの孤独を救っていた。
「1年間通してあいつが頑張ってくれんことには、3連覇はないからね。もう勝ちゲームで投げてもらわなあかん。必要不可欠やから。打たれてカッカカッカする時もあるやろうけど、試合は毎日あるわけやから。彼のあの強いストレートを存分に活かしてほしいと思うし、そのためにはいつも冷静でおらなあかんねん。それは関係ない俺やから逆に言えるかもしれん。『カッカすんな、大丈夫やで』って。それはその時に応じて、言うつもりやから」
孤独を和らげる「ヘイ!」の挨拶
ヘルナンデス本人にそのことを尋ねると、「大西コーチとは、いつも冗談を言い合う仲なんだ。もちろん尊敬しているし、大好きだよ」と柔らかな表情を見せた。その目には、確かな信頼が宿っている。「確かにフラストレーションが溜まる場面もある。そんな時、大西コーチが『後ろに仲間がたくさんいるんだから、落ち着いていこう』と言ってくれる。その言葉が、僕を前向きにしてくれるんだ」。
2人の結びつきは、グラウンド外でも深まっている。遠征先の朝食会場などでも頻繁に言葉を交わすという大西コーチは「なんか知らんけど、あいつとよう会うねん(笑)。『あ、また会ったな。ヘイ!』言うて」。そんな日常の断片こそが、ヘルナンデスの孤独感を少しでも溶かしていることは事実だ。
「これから毎日、大西コーチと話すようにするよ(笑)」と上機嫌で語ったヘルナンデス。その言葉を伝えると、大西コーチは「逃げるわ!」と笑い飛ばしたが、その表情は実に嬉しそうだった。
ふとした瞬間にかけられる「カッカすんな、大丈夫やで」の言葉。管轄を超えた優しさが、左腕の荒ぶる心を静める。頂点への険しい道のりを支えるのは、こうしたグラウンドに咲く小さな信頼の積み重ねなのだと、2人の笑顔が物語っていた――。
(飯田航平 / Kohei Iida)