日本シリーズ登板なし、大関が振り返る日本一
「自分が日本シリーズのマウンドに立てなかったこと、それが実力。自分の脆さが見えた時間だったなと思います」。調子を落としたシーズン終盤を冷静な表情で振り返ったのは大関友久投手だった。
大きな飛躍を遂げた1年だった。今季は24試合に先発して13勝をマーク。勝率.722で自身初めてのタイトルとなる最高勝率を獲得した。5月17日の楽天戦から8月19日の西武戦まで破竹の9連勝で、最下位からの逆転優勝に大きく貢献した。
一方でシーズン最終盤には調子を大きく落とし、日本シリーズは登板なしで終わった。「シリーズが進んでいくにつれて……」。左腕が終盤戦に失速した原因、そしてベンチから見つめた日本一の瞬間に起きた“心境の変化”を激白した。
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続きの内容は
・チームの日本一で大関の心に生まれた「大きな変化」とは
・大関が語る!「心技体」で足りなかった”逆算”の正体
・来季の目標達成へ!理想のフォームを支える「肉体改造計画」
「投げられない悔しさとチームが勝つうれしさ、2つが同じ高さで並んでいるような気持ちで見ていました。でもシーズンですごく活躍できた自分もいれば、一気に活躍できなくなった自分もいる。この波があるのも含めて自分の実力。そんなふうに感じていました」
日本シリーズで登板機会がなく試合が進む中、大関の心境には大きな変化が起きた。同時期、スポーツ心理学を学んでいるトレーナーとの会話の中で感じていたのは、「ある事象に対して他者はどう思うのか」という“他者への関心”を育てることの大切さだった。
「僕は元々、自分の軸をすごく大事にするタイプだと思うんです。『自分への矢印』で捉えるのが得意でした。でも、日本シリーズでは『投げられない自分が悔しい』という自分への矢印だけではなく、この日本シリーズをファン、チームメート、監督やコーチはどう見ているのか。『相手への矢印』を少しでも持つことが人として成熟するために必要なことだと意識して、あの期間は過ごしていました」
自分が投げられない悔しさは、実力不足ゆえの結果だと冷静に受け入れる。その上でベンチから同僚たちを応援し、チームの勝利を願った。最後はプロとして、そして人として仲間を応援する気持ちが高まっていた。
「マウンドでは投げていないですけど、来年は絶対もっとやってやるぞと思って日本一を喜んでいましたね。だからこそ間違いなく1年前の自分より、今の自分の方が成長できているなと思います」
分析する終盤戦に崩れた“要因”
シーズン中最終盤で大きく調子を落とした理由はなんだったのか――。「6月頃からフォームの方向性がしっかり掴めて、感触はすごく良かったんです。それもあって8月まで連勝することができました。ただ、9月頃から一気に苦しくなって……」。不調の原因として振り返ったのは、フォームの“再現性”だった。
「フォームを高い精度でキープすることが大事で、それには『心技体』の全てが繋がっていないといけないのかなと思います。『技』で言えば、フォーム自体の精度が狂ってしまったこと。『体』の面で見れば、その精度を維持できないフィジカル状態に陥っていたこと。スクワットの数値や体のスピードが低下したことで、フォームを再現できなくなっていました。『心』の面では、そこへの逆算が足りなかった、できていなかったことだと思っています」
オフに入ると、今季見つけた理想のフォームを高いレベルで維持するためトレーニングを重ねている。「高い精度で投げられる体をどれだけ作れるか。今シーズンの反省、見つけた自分の伸び代も含めて取り組んでいます」。1か月2キロ増を目安に、体も大きくしている。
今季開幕前に掲げた「13勝」という目標をクリアし、初のタイトルを獲得することもできた。「順調に進めた1年だったと思います」。来年は1年間戦い抜く強靭な体を作り、日本シリーズの舞台で輝く――。大関友久は静かに、決意を新たにしていた。
(森大樹 / Daiki Mori)