1年前のハワイで抱いた不安「投げられるのか」 上沢直之が“無冠返上”へ明かした野心

早朝トレーニングを終えた上沢直之【写真:荒川祐史】
早朝トレーニングを終えた上沢直之【写真:荒川祐史】

振り返った「三振を取れるタイプじゃない」

 優勝旅行中でも、この男の朝は早い。トレーニングウェアに身を包んだ上沢直之投手が宿泊先に戻ってきたのは午前8時だった。その表情には、心地よい高揚感があった。「毎日、行ける時は行こうかと思っています。朝食をみんなが食べる時間には帰ってきたいなと思って」。涼しげな笑顔でそう語る右腕。家族との穏やかな時間を守る父親の顔と、アスリートとしての姿。その両立に、充実ぶりがにじむ。

「こうやって優勝旅行に来られて嬉しいし、来年も来られるように頑張りたい」

 ハワイを訪れたのは昨年に引き続き3度目。しかし、上沢の瞳に映る景色は、昨年とは異なっていた。「去年のこの時期は『投げられるかな』という気持ちのほうが大きかったので」。移籍1年目の今季は不安との戦いだった。そんな上沢が来季への目標を力強く語った――。

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続きの内容は

「三振が取れない」右腕を一変させた、後半戦の”感覚”とは
タイトル獲得を意識させた「改良フォーク」と「直球の出力」の秘密
若手・藤原投手からベテラン上沢が”盗もう”とする「感覚」の正体

明かしたスタイル変貌への手応え

「(去年は)なんとかしたいなと思って、それに対して準備していました。来年は、自分が残した成績を超えるためにやりたいので。そこの意識が違うかなと感じます」

 不安を抱いていた1年前とは対照的に、目の前にあるのは純粋な向上心だ。今季は12勝6敗、防御率2.74の成績を収め、リーグ優勝と日本一に大きく貢献した。そんな中でも、上沢の投球スタイルには明らかな変化が見られた。奪三振数の増加だ。自身も「三振をそんなに取れるようなタイプじゃないと思っていた」と振り返るが、シーズンの後半に右腕の投球は一変した。

「試合を通して5つか6つくらいしか(三振を)取れていなかったのが、10個とか。イニング数と同じくらい取れるようになってきたんで。『なんかよく取れているな』という感覚が徐々に出てきました」

 きっかけは改良したフォークボール、そして出力の上がったストレートだ。「これを1年間継続できたら、もしかしたら(タイトル獲得が)見えるかもしれないな、というのはあります。狙ってというか、意識してやりたいなと思います」。そう語る通り、歯車が噛み合い出した手応えを感じている。積み重ねた技術が、投球スタイルにもたらした“変化”。それが来季の新たな目標を生み出した。

後輩からも吸収する「貪欲さ」

 今オフの自主トレ先である宮古島には、後輩の藤原大翔投手らの参加が決まっている。だが、上沢はそこで“先輩風”を吹かすつもりはない。

「僕が表立って『これやろうぜ』っていう感じじゃないので。『みんなでやって、いい話を共有しよう』みたいな。それぞれの技術とか、トレーニング方法とかを共有しながら練習しようと。なんか、僕の自主トレって感じじゃないです。彼(藤原)から僕も話を聞くと思います。僕が教えるだけじゃないというか、彼にしかない感覚もあると思うびで。僕もいろいろ話を聞いてみたいです」

 実績ある投手が、若い投手の「感覚」を欲する。この貪欲さが今季の活躍を支え、器の大きさを証明する。「1つクリアするとまた、もっともっと先のことをなんとかしたいな、という思いが出てくる」。ともにトレーニングに励む藤原からも何かを掴むつもりだ。

「タイトルを獲れる人って限られていると思うし、やっぱり野球選手をやっていたらタイトルを1個獲りたいなっていうのがあるので。まあ何か1つ、どれでもいいんで獲れたらなとは思います」

 すでに来季を見据えていることもあるが、通常のルーティンワークを崩すつもりはない。まだ肌寒さの残る早朝のハワイ。その空気よりも澄み渡った表情で、家族のもとへと戻っていった。その背中は、来たるべきシーズンの「タイトル」という獲物を静かに捉えていた。

(飯田航平 / Kohei Iida)