首位打者の裏にあった“願い”…牧原大成を支える育成魂「誰かに奪われるだけ」

牧原大成【写真:栗木一考】
牧原大成【写真:栗木一考】

プロ15年目にして育成選手初の首位打者

 球史に輝かしい足跡を刻んだとしても、「育成魂」は変わらぬままだ。牧原大成内野手は7日、アマチュア野球大会の企画や運営、アスリートの支援事業などを行う「BSO」が福岡市内で主催したトークショーに参加。口にしたのは、未来ある後輩たちに向けた熱いメッセージだった。

 牧原大は15年目の今季、自身初の規定打席に到達し、打率.304で育成出身選手として史上初のタイトルを獲得した。育成選手制度が始まった2005年ドラフトから、今年でちょうど20年――。数多の選手がプロの世界に飛び込み、そのほとんどが夢半ばにユニホームを脱ぐのが現状だ。

 ホークスは12球団の中で、最も成功例が多いと言っていいだろう。牧原大、千賀滉大投手、甲斐拓也捕手の“黄金トリオ”を始め、周東佑京内野手や大関友久投手ら多くの選手が1軍の主力に成長した。そんな中でも、育成選手への思いがひと際強い牧原大にとって、首位打者を獲得した「意味」はどのようなものだったのか。

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続きの内容は

・WBC出場に「すぐにはいとは言えない」と語った真意
・“第2の牧原大成”が出てきてほしい…その思いが本物である理由
・タイトルを取ってもなお残る「育成魂」…何を語ったか

「あくまでやるのは自分自身なんですけど、タイトルを取ったことでモチベーションになってくれたらいいなっていうのはありますね。『育成で入団したとしても、頑張ればタイトルを取る選手にもなれるんだぞ』っていうのを感じてほしいなと思いますね」

トークショーに参加した牧原大成(中央)【写真:長濱幸治】
トークショーに参加した牧原大成(中央)【写真:長濱幸治】

WBC出場へ明かした本音「もちろんありますけど…」

 そう口にした牧原大の目は、グラウンドで見せる鋭さとは正反対の優しさにあふれたものだった。近年の自主トレでは複数の育成選手を招き、自身が培ってきた技術や思いを惜しげもなく伝えてきた。「より一層、自信をもって後輩たちに教えていけるのかなと思いますね」。“第2の牧原大成”が出てきてくれることを、心から願っている。

 一方で、タイトルを取ってもなお“育成魂”は変わらぬままだ。来年3月に開かれるWBCへの思いを問われると、「もちろん出たい思いはありますけど……」と前置きしたうえで、こう続けた。

「『出ますか』と聞かれて、すぐに『はい』とは言えないですよね。本職はもちろん。ホークスでしっかりとやることなので。WBCに出て優勝したけど、リーグ戦はケガをして出られませんでしたってなったら、クビになるかもしれないので。メーンはホークスでしっかりとプレーすることです」

 自らの立ち位置、そしてやるべきことを冷静に見つめられるのも、また牧原大の能力だ。「慢心とかは全くないですね。それがホークスの強さなので。これで油断していたら。誰かにポジションを奪われるだけ。本当に自分の体に衰えを感じるまでは、しっかりやっていくだけですね」。

 現状に満足することなく、さらに上を目指すのは、これまでの先輩の背中から学んできた“矜持”だ。さらなる飛躍を遂げることで、現在、そして未来の育成選手にとって最高の「道しるべ」となるつもりだ。

(長濱幸治 / Kouji Nagahama)