通訳だけが見たダウンズの“苦悩”
「日本一の瞬間は忘れられないですね。ジーターが急に1軍に呼ばれて、優勝した瞬間をみんなでベンチで喜ぶことができた」。こう振り返ったのは、2025年限りでの退団が決まった安藤ケビン通訳だった。今季は主にジーター・ダウンズ内野手とカーター・スチュワート・ジュニア投手を担当し、そばで支えた。
3月にスチュワートが左腹直筋を痛め、リハビリのため4月から帰国していたこともあり、ダウンズをサポートする時間が長かった。しかし、背番号「4」はシーズン序盤に2か月の2軍生活を過ごすと、優勝争いが大一番に差し掛かった8月28日に2度目の抹消。ファームでレギュラーシーズンを終えた。
「外国人選手が日本に来ているのは、やっぱり1軍で活躍するためにきているわけで……」。シーズン終盤の2軍生活、そして日本シリーズでの1軍昇格――。誰よりも近くで寄り添った通訳だけが見た、ダウンズの知られざる“苦悩”があった。そして来季もホークスでプレーすることが決まった“相棒”への思いを明かした。
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続きの内容は
絶望的な状況でダウンズを支えた「たった1つの真実」とは
通訳が明かした「あえて米国ではない」未来の願望とは
雨天中止の日に告げられた、日本シリーズ「1軍昇格」の舞台裏
「みやざきフェニックス・リーグの期間中、『もう今年は絶対にプレーオフで呼ばれない』っていう、ジーター自身がマイナスな考え方になっていた時期もあったので。でも、ショックの中でも真面目に毎日、試合前のルーティンを変えずに室内でしっかりと打ち込んで試合を迎える。そこは絶対に崩さなかったですね」
時には周りとの会話を避けるような素振りを見せることもあった。フェニックス・リーグで取材を申し込むと、「1軍に昇格してから」と断りの言葉を受けたこともあった。それでもグラウンド上では普段と変わらぬ姿勢を貫いた。「試合に出られない悔しさを押し殺し、黙々と準備を続ける。本当にすごいなと思いましたね」。静かに1人で調整を進めた。
フェニックス・リーグの試合が雨天中止になった10月22日。室内練習場で調整をしている際に突然、1軍への合流が言い渡された。「本人もすごく喜んでいました。毎試合、しっかり準備をしていたので。それで急に1軍へ呼ばれて。しかも日本シリーズで打席にも立てたっていうのがポイントだと思います。その瞬間は忘れられないですね」。
願ったダウンズの“未来像”
ダウンズは2024年シーズン途中にホークスへ加入し、来日から約1年半が経った。安藤通訳が願った“将来像”は意外なものだった。「あえて米国ではなくて、日本でスーパースターになってほしいですね。もしホークスで難しかったとしても、彼は日本でスター選手になれるものを持っていると思うので」。
そばで見て感じたのは、日本に対応しようする強い姿勢だった。「日本っていう国への対応、馴染むのって結構時間のかかることだと思うんですけど。でも、そういう姿勢はすごく見える選手だと思うので」。今年初めには時差ぼけ対策で早めに来日し、春季キャンプを少しでも良い状態で迎えられるように最善を尽くした。試合前のベンチでも、同僚たちと笑顔でやり取りをする場面も多く見られた。
安藤通訳は今季限りでホークスを退団し、新たな道へと進む。「ホークスでの3年間は本当に楽しかったです。自分のやりたいことや家族のことを考えた結果、今しかできないこともあって。チームを離れる決断はすごく難しい決断でした」。ダウンズが日本でスーパースターになるその日まで―――。少し遠くから見守り続けている。
(森大樹 / Daiki Mori)