狂ったフォーム「自分でも分からない」 悩める育成右腕…救われた大関友久の“優しさ”

相原雄太、大関友久【写真:竹村岳、栗木一考】
相原雄太、大関友久【写真:竹村岳、栗木一考】

育成ドラ8相原が振り返る1年目

「振り返ってみても、苦しいだけじゃない貴重な1年目だったなと思います」。ル-キーイヤーを前向きな言葉で振り返ったのは、2025年ドラフト育成8位・相原雄太投手だ。23歳が歩んできた野球人生は決して順風満帆ではなかった。

 度重なる怪我を乗り越えてきた。埼玉・伊奈学園総合高3年時の11月に右肘内側側副靭帯再建術(トミー・ジョン手術)を受け、仙台大1年時は登板なし。4年時にも再び右肘を手術し、最後の1年はマウンドに上がることができなかった。それでも191センチの長身から繰り出す最速150キロ超の直球に将来性を見いだされ、プロの門を叩いた。

 しかし、入団直後は怪我明けだったこともあって投球フォームが上手くはまらず、球速も140キロ前半にとどまった。非公式戦でも打ち込まれる苦しい日々が続く中で、6月頃から同じ仙台大出身の先輩・大関友久投手からアドバイスをもらう機会が増えた。トレーニングルームや食堂で過ごした“貴重な時間”が、右腕の大きな成長のきっかけになった。

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続きの内容は

・フォームの迷路を生んだ探求心ゆえの「意外な理由」
・大関が薦めた1冊の本に書かれた「シンプルな教え」
・斉藤和巳監督が相原を抜擢した裏にある「評価の理由」

 フォームがはまらなかった理由には、相原の探求心がかえって影響していた。大学で体育学部に在籍し、パーソナルトレーナー(PT)の資格を取得したこともあり、トレーニングへの関心は人一倍強い。だが入団直後にプロの世界で出会ったのは、より深い知識を持つ先輩たちの姿だった。周囲の助言に耳を傾けすぎるうちに、迷いが生じた。

「いろいろな先輩に話を聞きました。最初は聞いたことをたくさん取り入れようとしすぎて、『このトレーニングはこれにつながっていて、これはあれで……』と自分の中でも分からなくなってしまって。しかもそれをそのまま試合で実戦しようとして、全く上手くいきませんでした」

大関に薦められた1冊の本

 悩みこんでいた今年6月、練習で「タマスタ筑後」を訪れていた大関と、トレーニングルームや食堂で顔を合わせることがあった。自身の現状を相談する中で薦められたのが、「自分の最高を引き出す考え方」という1冊の本だった。ビジネスパーソンやアスリートが最高のパフォーマンスを発揮するための思考法を、6つのスキルに焦点を当てて紹介する著書だ。

「今までは『抑えないと』という意識はもちろん、練習でやってきたことを出したいという気持ちもありました。考えを整理できないまま試合に臨んでしまっていたんです。でも単純なことですが、試合でやりたいことを1つに絞って取り組むようにしたら、思考がシンプルになって結果も落ち着いてきました」

 同じ仙台大出身だが、在学期間は重ならなかった5学年の先輩。「大関さんは考えを押し付ける感じじゃない。『自分で考えてみて』と個性を尊重してくれました。トップ選手なのに、僕のような育成選手の話にも耳を傾けてくれる。本当に目標になる存在です」。自身と同じく育成入団し、今季は最高勝率のタイトルを獲得するまで成長した大関の言葉で考え方が変わり、マウンドに上がったときの気持ちが楽になったという。

チームが評価した相原の“姿”

「『きょうはここを意識する』とか、『こう動きづらいから逆にこっちを意識してみよう』とかが、なんとなく分かってきたかなと思います」。目標達成までの道筋を理論的に立てることで、頭の中の整理が進んだ。7、8月ごろから試合での結果や感覚が上向き、直球は再び140キロ後半を計測するまでに戻った。

「全体的にバラバラだった力のベクトルが、しっかりホームベース上に向かうように修正されてきました。それで出力が安定してきました」

 日々の取り組みと成長が首脳陣に評価され、10月には秋季教育リーグ「みやざきフェニックス・リーグ」に参加。プロ入り後、初めて2軍のマウンドに立った。斉藤和巳3軍監督も抜擢の理由について、「大卒というところで、1年目やけど危機感を持ちながらやっていると思うので。3軍でのピッチングや日頃の練習での取り組みを見て、コーディネーターが一度こちら(2軍)で投げさせてみたいということだった」と話していた。

 初めて上がった2軍戦のマウンド。「前半戦は(打者の)左右で変化球を使い分けるコントロールに苦しみましたが、後半にかけて修正できたのは大きな収穫でした。一方でスライダーやカーブ系のカウント率が低いといった課題も見えてきました」。同じ仙台大から育成、そして支配下登録を目指す。大関友久という大きな背中を追いながら、右腕は急成長を迎えようとしている。

(森大樹 / Daiki Mori)