日本シリーズ第5戦の試合前…「お前に任せた」
選手会長2年目を迎えた2025年、パ・リーグ連覇と5年ぶりの日本一に輝いたチームを先頭でけん引し続けた男は自ら肩の荷を下ろした。「個人的には、やってよかったなと思います」。そう語った周東佑京内野手の表情は、どこまでも穏やかだった。
10月30日に甲子園で行われた阪神との日本シリーズ第5戦。日本一が決まった一戦を前に、栗原陵矢内野手へ声をかけた。「お前に任せた」。選手会長の引継ぎが正式に行われた瞬間だった。
これまでも2人は公私共に仲のいい間柄だった。周東が1学年下の栗原にバトンを渡したのは自然な流れのようにもみえるが、実際には違った。「シーズン中は本当に悩みました」。周東が明かしたのは候補に挙がっていた4人の名前――。そして、栗原に次期選手会長を託した真意だった。
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続きの内容は
・周東が明かす、次期会長候補の「4つの名前」
・チームの空気を変えた周東の「あえての発言」とは
・栗原が経験した「苦しい時期」が会長に繋がった理由
「シーズン中は本当に迷っていたので。クリがやるのか、マツ(松本裕樹)がやるのか、僕が続けるのか。本当に(候補が)いなかったら、その下(の世代)でもいいと思ったので。(柳町)達でもいいし、(川瀬)晃でもいいと思っていました」
周東が逡巡したのは、選手会長という役職がそれほど大きなものだったからだ。チームの先頭に立って、球団や報道陣の前で発言する。「僕の発言1つがチームの発言になりますし、僕の行動1つがチームの行動になる。そういう責任感は出てきたなと思います」。グラウンド外での気苦労も絶えなかった2年間を振り返りつつも、「こういう経験ができる選手もそう多くないですし、色んな選手がやった方がいいと思います」と語った。
プレー以外にも感じた成長「1人の人間として」
自らも選手会長就任を機に、大きな成長を遂げた。就任1年目の昨季に初めて規定打席に到達すると、今季は怪我に苦しみながらも悲願の日本一をつかみ取った。「選手会長がある程度の成績を残さないと、やっぱり格好がつかないと思っていたので。試合に出ていないと、周りからの見られ方も変わってくる。まずは自分のことを第一にやって、それに周りも付いてきてくれればいいかなと思っていたので」。
さらに口にしたのはグラウンド外での意識の変化だった。「野球選手としてもそうですけど、1人の人間として人前で話す機会もやっぱり増えるので。どういう伝え方がいいのか、考えて話さないといけない」。チームが苦境に苦境に陥った時でも、報道陣の取材には真正面から答えた。
「チームの負けが込んでいるときに、僕が『雰囲気はよくないです』と発言したら、本当に悪くなる可能性もあるから。やっぱりみんな記事とか見ていますし。だからこそ、本当にヤバい時期でも『大丈夫』と思ってもらえるような発言をあえてしたこともあるし、そういう考えは多かったですね」
苦しみながらも成長した自負があるからこそ、このバトンを栗原に託そうとも決めた。「一番いろんな経験をしていますしね。彼としてもいい時期があって、ケガをした時期があって、悪い時期があって、彼自身もすごく苦しんでいた時があった。それでも、今年シーズンの初めに『2人でやっていこう』という話をしたので。やっぱりもう、クリしかいないのかなとは思いました」。
自身の肩の荷が下りても、姿勢を変えるつもりはない。「若い選手が増えてきて、やっぱり見られるので。上の人がどんな練習に取り組んでいるとか、どんな行動をしているのかって、下の子は見ていますし。『選手会長じゃないから気を抜きます』とはならないように。ちゃんとしないといけないなと思います」。周東は変わることなく、先頭に立ってチームを引っ張っていく。
(長濱幸治 / Kouji Nagahama)