甲斐の移籍から始まった2025年…首脳陣のリアルな評価
チームの負けが込めば、批判の矛先が必ず向かってくることは分かっていた。首脳陣が共通認識として持っていた“合言葉”――。「『やっぱりキャッチャーがダメだったよね』とは絶対に言われたくなかった」。リーグ連覇、そして5年ぶりの日本一を成し遂げた今だからこそ語れる本音と、来季以降の展望に迫った。
2025年シーズンは“幻影”との戦いから始まった。長年チームの正捕手としてプレーしてきた甲斐拓也捕手が昨オフに巨人へFA移籍。今春キャンプの話題は「ポスト甲斐」の行方で持ち切りだった。小久保裕紀監督はキャンプ中、「キャッチャーについてはコメントしない」との姿勢を貫き、静かに正捕手争いを見守った。
結果を見れば、レギュラーシーズン後半から海野隆司捕手がレギュラーとして起用されるケースが増えた。日本ハムとの激戦を制したCSファイナルステージ、そして接戦の連続だった日本シリーズで見せたパフォーマンスは、チームの大黒柱と呼ぶにふさわしい活躍だった。開幕当初の苦境を乗り越えた今季をどう振り返り、来シーズンに向けてどのような展望を持っているのか。首脳陣のリアルな評価を聞いた。
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続きの内容は
・小久保監督が海野に送った「真意」
・来季の捕手争いを左右する「テーマ」
・育成選手にもある「逆転の可能性」
「僕ら首脳陣としても、『拓也が抜けたからダメだったよね』とは絶対に言われたくなかった。開幕ダッシュに失敗して、『ほらね』『やっぱりこのメンバーじゃしんどいよね』っていう思いが周りにはあったと思うんですよ。それを一番感じていたのは当然、海野であり、キャッチャー陣だったと思うので。それが交流戦くらいからあれよあれよと勝ちだして。歯車がうまく回るようになって、結局は日本一になれたので。これはもう、大いに評価に値するところだと思いますよ」
1軍から4軍までの捕手陣を総括的に捉え、各部門のコーチと綿密にコミュニケーションを取ってきた森浩之コーディネーター（野手）は、熱い言葉で2025年を振り返った。「本当に頑張ったと思います。1軍の高谷コーチしかり、海野、谷川原（健太）、嶺井（博希）もやっぱり『くそ』って思うくらいの1年間だったと思うので。やっぱり無言のプレッシャーを感じていたはずなんですよ。『試合に出るのが嫌』っていうほどの気持ちだったんじゃないかなとは思いますよね」。
小久保監督があえて発した檄「うかうかしてられない」
周囲の声に惑わされることなく、歯を食いしばりながら戦った1年。日本一という最高の結果で“答え”を示して見せた捕手陣だが、もちろんペナントレースは来年以降も続いていく。将来へいかなる展望を持っているのか。森コーディネーターはこう続けた。
「来年以降に向けては、やっぱり海野を脅かすキャッチャーが出てこないといけない。谷川原のほかにも、渡邉陸の成長はすごく楽しみというか、求めてるところ。こちらサイドとしてはね。それに加えて育成ではあるけども、今年入団した大友（宗）と、3年目の盛島（稜大）がどこまで支配下に迫れるかっていうところじゃないですかね」
小久保監督は日本一を成し遂げた直後のビールかけで、あえて名指しで檄を飛ばした。「海野！ 来年はバッティングも期待します。今のままではちょっと厳しいかもしれません」。その後の囲み取材では「『1度壊す』っていうのが来年のテーマですね」とも口にした。指揮官が発したメッセージは大きな意味を持つ。
「小久保監督も話していたけど、『今年勝ったからいいでしょう』っていうわけでは全然なくて。その先をしっかりと見ている。当然、横一線ではないけども、今年のアドバンテージを持って、どこまで海野が逃げれらるのか。谷川原や陸、嶺井や育成の2人が追いついていけるのか。そこはシビアな戦いになると思います」
そう語った森コーディネーターに同調したのは、髙谷裕亮バッテリーコーチだった。「監督が言われたことは、『もし打てるキャッチャーが出てきたらチャンスがあるかもしれない』という裏返しでもあると思うので。そう思っていいんじゃないですかね。『海野もうかうかしていられないよ』と。競争はずっと続くと思っているので」。
逆風を乗り越え、訪れた歓喜の瞬間。それでも、2026年に向けた戦いは早くもスタートしている。「本命」が来季もマスクをかぶるのか、それとも――。いずれにせよ、高レベルな捕手争いが繰り広げられることは間違いなさそうだ。
（長濱幸治 / Kouji Nagahama）
