
10月20日に制したCS…シャンパンファイトもすぐに退出
ホークスが5年ぶりの日本一に輝きました。春先の苦悩から頂点に上り切った歓喜まで、選手1人1人にストーリーがありました。上沢直之投手が打ち明けたのは、CSファイナル突破後に行われたシャンパンファイトを“速攻”で退出した理由。右腕が楽しみにし続けていた景色とは? 新天地で駆け抜けた1年目、実感した「ホークスの強さ」についても赤裸々に語りました。
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「みんな最後まで、俺についてきてね。最後の山、全員で登ろう!」。10月20日、日本ハムとの激闘を終え、選手会長を務める周東佑京内野手の号令でシャンパンファイトが始まった。第6戦まで及んだCSファイナルステージ。びしょ濡れになって歓喜するナインを横目に、上沢はすぐに会場を離れた。一体、どんな理由が右腕を突き動かしたのか。
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続きの内容は
・シャンパンファイトを“秒”で退出した真意
・11年前の悔しさから得た、鷹の「強さの秘密」
・川瀬晃が語る、上沢投手「意外な素顔」
CS第3戦に先発登板…「もう少しこうしておけば」
「日本一になってからの方が絶対に面白いし、より楽しめるかなと思いました。僕も次の登板が控えていて、調整している中だったので。日本一になればね、もう後先を考えずに楽しめるかなと思います」
シーズン中の飲酒は制限し、移籍1年目の2025年を戦ってきた。日本シリーズ進出を決めた喜びよりも、自身の調整を優先したかった。「車で帰りたかったっていうのもありますけどね」。そう言って笑ったが、頂点に立ったからこそ見える景色を上沢なりに楽しみにしていたのは間違いない。全てはチームのため――。先発投手としての責務を果たすべく、すぐさま帰路に就いていた。
CSでは17日の第3戦に先発したが、7回途中6失点で黒星を喫した。結果に対する悔しさと、シャンパンファイトを早々に退出したことは「関係ないです」ときっぱり言い切る。投球内容についても「状態は、むしろいい方だったかなと。その中で『もう少しこうしておけば』という点もあったので。次の試合に向けてしっかりやりたいなという気持ちで、考えながら調整してきました」と前向きに振り返っていた。
11年前の10月20日にはCSファイナル第6戦に登板
上沢は11年前にも“絶対に負けられない試合”を経験している。2014年、日本ハムは3位からCSファーストステージを突破。リーグ優勝したホークスと福岡で激突し、3勝3敗となった。第6戦が行われたのは、今年と同じ10月20日。レギュラーシーズンで8勝を挙げた当時3年目の上沢が先発を託された。
結果は、3回2/3を投げて2失点。3点差でチームは敗れ、日本シリーズに手が届かなかった。相手として感じたホークスの強さについて、こう表現する。「大事な試合は勝ち切るイメージがありますよね。対戦していても、狙いを持ってなにかを徹底している感じがするんです。『なんでこんなに、いつもと違うんだろう』みたいな感覚は、その試合に限らずずっとありました」。チームが一丸となってプレッシャーをかけてくる。そんな印象は、今も胸に刻み込まれている。
時は経ち、今季は鷹戦士として日本一に貢献した。今度は“中”から、ホークスの強さを感じた。「1軍に定着している人がしっかりと仕事をするし、求められているプレーをする。(日本ハムとのCS6戦目も)シーズン中にやってきたことが凝縮されたような試合だったじゃないですか。どういうチームなのかって、やっぱり一緒にプレーするからわかることですよね」。大事な試合で発揮する一体感。常勝軍団たる理由を、肌で感じた1年間だ。
川瀬晃は明かしていた…上沢直之が「とにかく話しかけてくれる」
今季、幾度となく勝利に貢献してきた川瀬晃内野手は、上沢の存在について「とにかく野手に話しかけてくれる。僕もピッチャー陣と話すことが多くなりましたし、会話が増えました」と明かしていた。本人は「少しでもいい影響があったなら嬉しいです。試合の時しか話さないより、普段からコミュニケーションを取っている方がいいと思うので」と照れ笑いする。垣根を越えて、とにかくホークスに溶け込もうとした。どんな時も自然体だったことが、右腕が愛された理由だ。
日本シリーズ前には、こう語っていた。「CSでは悔しい形で終わってしまいましたし、なんとかみんながもう1回投げるチャンスをくれたので。しっかりと試合を作ってチームに貢献したいです。もし日本一が決まりそうな時は、今度は球場までタクシーで行きますよ」。感謝の気持ちを忘れずに、2025年を笑顔で終えた。頂点に立って味わう美酒は、最高の味に違いない。
(竹村岳 / Gaku Takemura)