
キャリアハイとなった2025年…胸に刻んだ“クビ”の覚悟
ホークスは阪神との日本シリーズを制し、5年ぶりの頂点を掴み取りました。30日の日本シリーズ第5戦では決勝のソロ本塁打を放ち、レギュラーシーズンではキャリアハイの成績を残した野村勇内野手。「きょうから人生が変わる」――。そう予感した出来事を明かしました。伴元裕メンタルパフォーマンスコーチの助言を受け、スマートフォンに残した“箇条書きのメモ”。「やってるからなるようになる」「やってきた」……。画面に並んだ10個の項目に、半年間の頑張りが全て詰まっていました。
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みずほPayPayドームに向かう車中。ハンドルを握る28歳の心はなかなか落ち着かなかった。ようやく訪れたチャンス。「きょうから人生を変えよう」――。日付も明確に覚えている。野村が決意を固めた瞬間だ。伴コーチとの出会いが、自身の全てを変えてくれた。
レギュラーシーズンでは126試合に出場し打率.271、12本塁打、40打点、18盗塁と、ほとんどの部門でキャリアハイを更新した。激闘を演じた日本ハムとのCSファイナルステージでも2本のアーチを描き、日本一にも貢献した。“クビ”になる覚悟を胸に、飛び込んだ4年目のシーズン。「もしあの1試合であかんかったら、絶対にこんな成績は残せなかったですね」。はっきりとした口調で振り返ったのは、5月1日の出来事だった。
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続きの内容は
・5月1日の舞台裏:野村が語る「覚悟」とは
・伴コーチが授けた:人生を変えた「10の言葉」
・キャリアハイの秘密:野村を支えた「絶対的ルール」
今宮健太の抹消…5月1日の日本ハム戦で今季初スタメン
4月30日の日本ハム戦(みずほPayPayドーム)。今宮健太内野手が右肘に死球を受け、途中交代した。チームリーダーが登録抹消となった5月1日、野村は「1番・遊撃」で今季初スタメンを託された。開幕1軍入りして約1か月。ここが“スタート地点”となった。「月の初めだったのもあって、めっちゃ覚えていますね。チャンスが来たと思いましたし『きょうから人生を変えよう』みたいな。自分でも、活躍できそうな感じはありましたね」。同日の試合でチームは敗れたものの、自身は4打数2安打と“爪痕”を残した。
落ち着いていられたのには、数々の理由がある。過去3年、課題はメンタル面にあることは自覚していた。今年の1月から力を入れたのはウエートトレーニング。シーズン開幕以降も継続し、数か月にわたって安定した取り組みを続けたことで、自分の中で絶対的な“ルール”が生まれた。
「1月からずっと続けてきました。その中で『やることをちゃんとやっていたら、その日の結果がどうなってもOK』って決めたんです。しっかりと自分を追い込めたら、打席で三振してもエラーをしても『やることはやっている』って。デーゲームの時はトレーニングできなかったですけど、ナイターとビジターの時はマジで妥協しなかったです。結果に左右されると(継続するのが)難しいし、メンタルを保つ意味でも頑張ってきました。逆に、休むことが僕にとっては一番よくないことだったので」
ルーティンを細かく変えて…伴コーチと定めた直近の目標
気持ちは確実に前を向き始めた。伴コーチとの関係性が深くなったのは、春季キャンプを終えた3月だった。「試合で出番がなかったら『何してるんやろ』ってなるから、毎日レベルアップしている実感がほしいです、みたいな。最初に話したのは一番上の目標、“夢”です。そのためには、日々どうすればいいのかって」。2人で話し合い、まずはミート力の向上を直近の目標に定めた。「試合に出られなくても『実感を大切にして練習していこう』っていうのがスタートでした」。心を開き、2人の間で交わす言葉も自然と多くなっていった。
本拠地に到着すると、真っ先にトレーニングルームに向かう。午後になってグラウンドへ出てくるのは、もう一汗かいた後だ。「これまでは試合が終わってから筋トレをすることが多かったんですけど、打てなかったら技術練習をしたくなるじゃないですか。球も触りたくなるし。気持ちに左右されたらいけないので、1日の始まりに(ウエートトレーニングを)やるようにしました」。ひたすら継続したルーティン。筋骨隆々とした身体は、野村が「変わりたい」と願い続けた証だった。
そして、5月1日がやってきた。できる準備は全てやってきたからこそ、焦りや不安は一切なかった。「伴さんともいろいろ話をしたんですけど、試合直前になって慌てるようなこともなくて。『大丈夫です、いけます』って感じだったのを覚えています。『久しぶりで緊張する、どうしよう』みたいな感情もなかったので」。地に足をつけた28歳に対し、“メンタルのプロ”である恩師は1つだけ助言をくれた。
「ちゃんと(考えを)整理したかったら、言葉にして書くか、携帯のメモにでもいいから打ち込んでみるといいよ」
伴コーチとの出会いが「めちゃくちゃ大きかったです」
箇条書きにした10項目は、まさに自分の“軌跡”だ。半年間の取り組みについて「軽く書いただけですよ」と照れ笑いしたが、「人生が変わる」と予感したのも徹底的な準備を貫いてきたから。「めちゃくちゃ大きかったです」という伴コーチとの出会い。固い決意と支えてくれる人がいるから、野村はもう絶対に迷わない。
日本シリーズを終えて、今季の戦いが終わった。長かった2025年。あらためて、野村勇にとってどんな1年間だったのか――。
「まずは与えられた役割を全力で果たすこと。しっかりやるからこそ、出番は回ってくる。準備をしていなかったら気付けないようなことがたくさんあったなって今だから思いますし、準備をしていたから、あの日(5月1日)をチャンスだと思えました。モノにできるかどうかは、全て自分次第。すごく人生が変わったシーズンでしたし、やっぱりちゃんと準備せなあかんなと思います」
(竹村岳 / Gaku Takemura)