チーム救った連続三振 藤井皓哉がマウンドで唱えた“呪文”…自滅の過去を経て生まれた「目」

藤井皓哉【写真:栗木一考】
藤井皓哉【写真:栗木一考】

武器への絶対的信頼「フォークを取ったら何も残らない」

 押し寄せるプレッシャーを感じるほどに、右腕は冷静さを取り戻した。舞台を甲子園に移して行われた28日の日本シリーズ第3戦。1点を争う展開に、4万人を超えるファンのボルテージは回を追うごとに上がっていった。そんな中で7回に2番手でマウンドに上がったのが藤井皓哉投手だった。

 先頭打者の打球は一塁方向へのゴロとなった。打ち取った当たりではあったが、山川穂高内野手が打球を弾いて出塁を許した。1つのミスが命取りになり得る緊迫した展開。藤井はなんとかカバーしようと、代打の髙寺に対してフォークで空振り三振を奪ったが、このボールを海野隆司捕手が捕球できずにランナーは一気に三塁へ進んだ。同点に追いつく絶好機の到来に、阪神ファンの声援は最高潮を迎えた。

「声にのみ込まれないように。投げ急がないようにとだけ、気を付けていました」。絶体絶命の場面でも藤井は揺るがなかった。18.44メートルの空間を支配するのは、あくまで自分――。1死三塁から近本、中野を続けて空振り三振に切って取った。「僕からフォークを取ったら、何も残らない」。極限状態で、最も頼りにするウイニングショットが冴えわたり、窮地を脱した。「きょうは藤井さまさま」。小久保裕紀監督からも絶賛されたピッチングを大舞台で披露できたのは、過去の苦い経験があったからだ。

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続きの内容は

・藤井投手がマウンドで繰り返した言葉とは
・自滅を乗り越え得た「鳥の目」の真髄
・小久保監督も絶賛…“冷静な熱投”の秘密

「エラーでの出塁だったので、抑えたいという思いが出たのは良いことなんですけど…」。ホークスが誇る“最強リリーフトリオ”の一角を担うようになった今シーズン、責任感も一層増した。人工芝のみずほPayPayドームとは違い、土のグラウンドの甲子園ではゴロ処理の難度は高くなる。「イレギュラーなことも起こりうると思ってはいました」。

「追い込む」よりも「追い込まれた」過去

 ただ、想定していたとはいえ、2つのミスが重なったことで生まれた一打同点の場面。さらに近本に対してストレートが3球外れ、負の連鎖にはまりかけたところだった。ここで一息置けたことが、過去とは違う藤井の姿だ。

「3ボールになったときに『ちょっと入り込み過ぎているのかな』って。力んでいるところが気になって、もう少し俯瞰して見られるようにと。そこでリセットできたのが良かった」

 かつては「抑えたい」という思いが空回った。際どいコースを狙いすぎ、制球を乱すシーンが度々あった。去年までの3年間で与四球率(9イニングあたりに与える四球数)は4点台。ピンチで自らを追い込んでしまっていた。しかし、今季はその値が2.52と大幅に改善した。

「力まない、力まない、力まない……」。アドレナリンが出るときほど、呪文を唱えるかのように自らへ言い聞かせる。勝負に入り込み過ぎて自滅した経験があるからこそ、勝負所で一歩引いてみることを覚えた。マウンド上で「鳥の目」を持った右腕は、ボールもメンタルも制御できるようになった。

 近本を打席に迎えた場面。3ボールからストレートで1つストライクを取ると、ストライクゾーンにフォークを投げ込み、追い込んだ。最後はストライクゾーンから“消える”フォークで空振り三振。中野もフルカウントからフォークを振らせた。

「ああいう場面でこそ、三振が一番リスクが少ないアウトの取り方。三振を取れるのが持ち味だし、そこが発揮できて良かった」。“冷静な熱投”が、自身初の日本一に近づく勝利を手繰り寄せた。

(鷹フル編集部)