充実のリハビリで見出した「新たな楽しさ」
想像以上の充実ぶりに驚かされた。20歳左腕の芯は太くて強い。9月26日に左肘のクリーニング手術を受け、来季の復活を目指す前田悠伍投手。競技復帰まで3~4か月を要する見込みだ。手術から約1か月が経過。これまで左腕はどのような心境で過ごしていたのだろうか。
「最初は『やりたいことができるのかな、何か縛られるのかな』と思っていましたけど、そんなこともなく、投げること以外の動作は自由にやりたいことができています」
手術を行う前には多少の不安も口にしていた20歳。術後から現状に至るまで、左腕が抱いてきた思いとはどのようなものだったのか。そして、思わぬ形で習得した“ある技術”も明かした――。
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続きの内容は
・前田悠伍が掴んだ“意外な技術”とは
・リハビリで得た身体の変化と効果
・逆境がもたらした「新たな視点」
「今めっちゃ楽しいんですよ。投げていないですし、野球はできていないですけど。自分の時間を過ごせているし、上手くなれていると実感しています」
大きくなった腰回り
こう語る前田悠の表情は、言うまでもなく明るい。患部が左肘なだけに、練習メニューは下半身中心のトレーニングが主だ。この日も午前9時から練習を開始し、終了したのが12時頃だった。
「全部のメニューをやったら、これくらいの時間になっているんです。いつも(投げられる状態)だったら、練習はもう終わってるくらいなんですけど、今は時間もあまり縛りがないし、でも気づいたら時間が経っている。すごく充実してます」
この1か月で、腰回りは自他共に認めるほど大きくなった。「筋肉がついたな、という感じはします」とニヤリと笑う。時間を忘れるほどトレーニングに没頭する日々。かつて感じていた肘への不安は完全に消え去った。「これから不安なく投げられると思うと、野球に集中できる」。その視線はすでに来季のマウンドを捉えている。
逆境が生んだ“意外な技術”
「最初は難しかったんですけど、もう箸も右手で使えるようになりました。そうせざるを得ない状態だったので、『あ、いい機会や』と思って、やっていたら普通につかめるようになって。今は左手を使えますけど、あえて右手で食べるようにもなりました」
手術が終わった直後は左腕が包帯で固定されていたため、入浴時はカバーをつけ、食事にも苦戦した。しかし、そんな状況でもこの男はポジティブな思考で、不便な日常生活でさえ野球の技術に転換することを試みたという。アスリートの中には、体の左右のバランスを整えるために利き手ではない方で食事をする選手もいる。「逆に良かったです。めちゃくちゃおもしろいですよね。人ってすごいなと思います」と、どこまでも前向きに語る。
手術という決断、そしてリハビリ――。その期間は、前田悠にとって自身の身体と向き合い、投球を一から見つめ直すためのかけがえのない時間となっている。来季、心身ともに必ずスケールアップして帰ってくる。何よりも印象的だった楽しそうな笑顔が、そう物語っていた。
(飯田航平 / Kohei Iida)