7回2死満塁でバトンを受けるも…「一番ダメ」
渾身の一球は無情にもはじき返された。試合を決定づける6点目を失っても、右腕はうつむかなかった。記録には残らないプレーに透けて見えた思い。「打たれたからといって当たり前のプレーをおろそかにしたら、チームに迷惑がかかるので」。そう口にしたのは木村光投手だった。
17日に行われた日本ハムとのクライマックスシリーズ(CS)ファイナルステージ第3戦。0-3で迎えた7回2死満塁の場面で先発の上沢直之投手が降板。バトンを受けた木村光だったが、郡司に直球を捉えられた打球は周東佑京内野手のダイビングも及ばず中堅左を破った。
走者一掃となる3点二塁打で試合の大勢は決したが、注目すべきはその後のプレーだった。清宮への5球目は自打球となり、一塁側に点々と転がったが、右腕は全力疾走で一塁カバーに入った。当たり前のプレーではあるが、その機敏な動きに木村光の決意が浮かんだ。
CS初登板となったマウンドに強い覚悟を持って上がった。「上沢さんが出したランナーを絶対に返さない、自分がカバーしたいっていう気持ちは正直めちゃくちゃありました」。尊敬の念を抱く先輩への思い。そしてマウンドを降りた際にかけられた言葉があった。「ナイスピッチ」――。
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続きの内容は
木村光が語る、上沢直之への「思い」
上沢直之が明かす、木村光の「可能性」
木村光が誓う、次なる登板への「決意」
「上沢さんは一番よくしていただいている先輩なので。自分がカバーしたいという思いはありましたけど、結果として抑えられなかったので。あそこで3点差のまま相手の攻撃を終えられていれば、きょうもわからない試合だったと思う。やっぱり、その悔しさはありますね」
昨季は日本シリーズで2試合に登板したが、今年のポストシーズンは初登板だった背番号68。まだまだ経験の浅い25歳にとって酷な場面だったのは間違いないが、木村光は言い訳を一切しなかった。「初球にいいボールがいったのに、次が甘く入った。一番ダメなことをやってしまった」。先輩を助けたい一心で腕を振ったからこそ、自らを厳しく責めた。
上沢が語った木村光の可能性「球界を代表する…」
今季からホークスに加わった上沢について、照れることなく「大好きです」と言い切る。遠征先で頻繁に食事を共にし、野球についても多くの助言をもらってきた。「CSで早く投げたいっていう気持ちもありましたけど、何より上沢さんが出したランナーを絶対に返さないという思いが一番でした」。
だからこそ、火消しには失敗しても、情けない姿を見せるわけにはいかなかった。全力のベースカバーは結果的にファウルとなり、記録には残らなかった。「自分としては普通のプレーをしただけです。まだ試合が終わったわけでもないのに、打たれたのを引きずっていたらチームに迷惑をかけちゃうので」。先輩からのバトンを受け取った以上、最後までファイティングスタイルを貫き通した。
3アウトを取り終え、ベンチに戻ってきた木村光に声をかけたのは上沢だった。「ナイスピッチ。お前は悪くないよ」。先発としてチームを勝たせられなかった悔しさはありつつも、後輩の投球を穏やかな表情でねぎらった。
「ああいうタフな場面で回してしまって。僕が抑え切れたらよかったなという思いが一番なんですけど。あそこでキムが打たれたからどうとかは一切ないです。むしろ、その後のバッターをしっかりと抑えてくれたので。明日以降に向けて、また頑張ってほしいなっていう思いが一番です」
木村光の懸命な姿も頼もしく映った。「いつも一生懸命やっているし、まだまだ若いので。これからどんどん成長して、いずれは球界を代表するピッチャーになっていく選手だと思っていますよ。僕もきょうはなかなかうまくいかなかったし、これまでもたくさん失敗しているの。なのでキムにとってはいい経験だと思います」。
その思いは25歳にも伝わっている。「今度こそはちゃんと抑えてカバーして。自分から上沢さんに『ナイスピッチ』って言えるように頑張りたいなと思います」。先輩の言葉を現実のものにしてみせる。
(長濱幸治 / Kouji Nagahama)